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2013.08.03 (Sat)

『Laplace』 Part.1 -Past Days- 文章サンプル8

『Laplace』 Part.1 -Past Days-の文章サンプルその8になります。
Web公開するサンプルは今回で最後となります。

【More・・・】





 その日は休日ということも相まって、特にやることもないからと自室に篭ってパソコンを弄っていた気がします。
 学校の宿題や、やるべきであろう予習なども全て終えて、たまの休みだからと二人で出掛けにいった両親の帰宅を待っていたのです。
 父や母にしても人間なのであって、いくら私がいるからといってどんな時でも看病であるとかお世話をしなくてはならないということはないと思います。そんな調子ではきっと息が詰まってしまい、いつか大きな破綻が生じるような気がしていました。せめて私が元気なのであれば、休日くらいは夫婦水入らずでガス抜きをするべきでしょう。
 両親は昼過ぎくらいに、昼食を一緒に食べてから出発していきました。簡単なものくらいならぼちぼち一人で準備を出来るというのに、どうにも心配でならないらしい母は薄味で仕上げたチャーハンと、いくつかの野菜で簡単に作ったサラダをラッピングして冷蔵庫に入れていったのです。
 陽も落ち頃合いとなって、器をレンジで温めていた時でした。電話の呼び鈴が鳴り響き、いつもなら母が応答するものですが今は私一人しかこの家にいません。火元が危ない調理もしていませんし、私はキッチンを離れて居間に置かれている電話の元へと急ぎました。
「はい、暁美です」
 休日のこんな時間に電話を掛けて来るような人に心当たりがなく、両親であれば私がベッドにいることを考えて携帯の方を鳴らすはずです。新聞か何かの勧誘か、もしくは両親の交友関係までは把握していないものですからどちらかの友人なのかなと思っていると、受話器越しのしゃがれた声は思いもしなかった名乗りを上げます。
「夜分に失礼致します。私、見滝原署の斎藤と申します。こちらは暁美様のお宅で間違いなかったでしょうか」
 悪いことをしている訳ではないというのに、相手が警察なのだというその一点のみで私は途端に緊張をしてしまいました。何かよくない予感を覚えながら、私は電話先が間違いないことを斎藤さんに伝えます。
「そうなると……ご息女の、暁美ほむらさんで間違いありませんか。はい、ありがとうございます。突然のお電話で申し訳ございません」
 そうやって一つクッションを置いてから、慌てないで聞いてくださいとする彼の声に、私は動揺をする間も許されずに事実を告げられることとなるのです。
「ご両親が、事故に遭われました。現在はお二方とも見滝原市内の病院に搬送されております。車はこちらで手配しておりますので、ほむらさんにはそちらに乗って急ぎ病院の方まで向かって頂けますか」
「え、ちょ、ちょっと、待ってください」
 私は自身の蚤のような心臓が途端に焦燥で踊ることを自覚しながら、狼狽した風もそのままに、それでも確認を取らなくてはなりません。
「すいません、警察の方なんですよね? 私の両親が事故って、えっ、冗談とか、間違いではないのですか?」
「落ち着いてください。慌てないでゆっくりと、一つずつ確認をしていきましょう」
 そうはいってもこれが落ち着いていられるものでしょうか。
 先方はこのような問答をするのは初めてのことではないのでしょう。自らの身分を的確に証す話を辛抱強く繰り返しながら状況の説明をするのですが、私の方は突然の事態に半ばパニックに陥ってしまったかのような態です。
 その時、背後でインターフォンが鳴りました。
 「ん、到着したかな。少々お待ちください」そういって斎藤さんは受話器を手で覆ったのでしょう。少し声が遠くなるような音となりながら、それでも張り上げているものですから彼ら現場職員の統率された情報伝達の様が漏れ聞こえて来ます。
 やがて話はまとまったようで、
「失礼しました。今、ほむらさんの自宅にうちの若いやつを向かわせておりまして、名は原口と申します。ベルが鳴ったと思いますが、ドアホンは付いておられますか?」
「は、はい、あります……」
「カメラも一緒のやつでしょうか?」
「あ、あります……」
「承知しました。では、電話越しにこうして私とやり取りをするよりは、実際に原口の顔を見た方がほむらさんも納得されるかと思われます。話は通してありますので彼の方と確認を取り、状況に同意をされましたら同行頂きますよう、よろしくお願いします」
 そうして斎藤さんは念のためということで直通電話の連絡先と、署内での所属を私に書き取らせてから電話を切りました。原口さんは待たせておくそうなので、落ち着いてから応対願いたいとのことです。
 あまり連打をしては私が焦ってしまうことを理解しているのでしょう。原口さんは隔分か何かそのような規則的な間隔で以て私を呼び続けることをします。居間の窓からちらと外を覗き窺ってみると、そこには白黒ボディに赤色ランプのパトカーが停められており、もはや訪問者の身分を疑うまでもないことは流石の私でも察しが付きました。
 自身がするべきことを把握しつつも、しかし今一つ踏ん切りの付かなかった私は少々の間を狼狽えて過ごすことをするのですが、やがて何度目かの呼び掛けに対してドアホンのカメラをオンにするスイッチを押し込みます。
「はい、暁美です……」
「ああ、よかった。私、見滝原署の原口と申します。斎藤から話はしてあると伝わっておりますが」
 カメラ越しに手帳を示す男性は父よりも大分若いように見え、まだ三十もそこそこといった風の出で立ちでした。パリっと仕立てられた制服を皺もなく着こなしており、いかにもやり手といった雰囲気が伺えます。
「はい、聞いています。あの、両親が事故に遭ったって……」
「ご認識の通りです。暁美さんを一刻も早くご両親の元へお送りするために、私が……」
 そうして丁寧に状況説明をする原口さんの背中はランプが回る度に赤色の明滅を繰り返しており、私の焦燥を煽って止みません。
「あの、両親の具合はどうなんでしょうか」
「それは……私の口からは申し上げることが出来ません。暁美さんに直接確認して頂くため、それまでの送迎を行うことのみが私の職分となっています」
 あとは何度訊ねても原口さんの返答はその一点張りとなり、そんなに意地悪をしなくてもと思うところですが、彼は彼で職務上の都合があるのでしょう。もはや我侭はいってられず、すなわち私が採ることの出来る選択というものは限られているのだということに気が付きます。
 私は玄関の扉を開け、チェーン越しにカメラへ映る人と目の前にいるその人とに間違いがないことを確かめ、そこでようやく同行することを了承するに至りました。
 口調では穏やかだった原口さんにしてもやはり相当に急いていたようで、私を車内に詰め込むや否やあっという間に車を加速させ、通い慣れた病院への風景をなぞるようにしていきます。
 向かう先はやはり見滝原総合病院のようでした。
「酔ったり、気持ち悪かったりしませんか」
「いえ、大丈夫です」
 幸いでした、とする原口さんはそれ以上に余計なことはいわず、私としてもその方が有り難いものでした。知らない人と話すこともそうですが、それ以上に今の私には父と母の容態が気掛かりで、とても他事までは手に付かなかったことであろうと思います。
 余計な信号に引っ掛かることもせず、車は数分も走ると病院まで到着しました。原口さんは玄関で彼の同僚が待っていることを私に告げ、先の案内は彼に一任してあるとのことです。
 私は気の急くのもそのままに降車し、玄関をくぐり、たったそれだけのことであるというのにすっかりと息が上がってしまいました。話の通り私を待っていたらしい警察の人が私の容態を心配するものですが、今はそれどころではありません。両親の元への案内をお願いし、先導する彼へと追従していきます。
「ああ、ほむらさん。よくお見えになりました」
 辿り着いた先で――こちらはよく見知った顔でした――私の主治医が待っており、名も知らぬ警官は黙って一歩を退くことをします。この先は主治医と私の話ということなのでしょう。身体の向きを変えて中空を見遣るようにしては、在、不在の限りなく中間を取って場の空気を明け渡すことをします。
「父と、母の容態は」
 私は息も絶え絶え、挨拶もそこそこに切り出します。先生はとある一室の前でまるで私を通せんぼするかのように構えており、その中に両親がいるのは明白でした。
「ほむらさん、落ち着いて聞いてください」
 彼はそうやって切り出すのですが、私は自らが直面しているこの事態をまるでドラマか何かのワンシーンのように感じながら佇んでいました。警察から両親が危篤だと連絡が入り、パトカーで移動し、果てに愛する人がいるであろうドアの前でして白衣の医者が結末を通告するのです。
 斯様な振りのあとに訪れるであろう展開についてはおおよその察しがつくものの、私はとてもではありませんがそれを許容出来るだけの器量は持ち合わせておらず、だからこそ自らの主体を客観へと逃がすことによって、何らかの心理的逃避を図っていたのかもしれません。
 それでも、やがて無慈悲は投じられました。
「ご両親は、亡くなられました」
 ――ああ。
 分かっていたとしてもどうにもならない衝撃というものはあります。私が逃げの一手を打ったとて、退路となる細道の全てを包括するように開かる粘着質な運命が私の手足を取り、果てに最も絶望的と考えられる、私のためだけに用意された真っ暗闇な穴蔵へとこの身を引きずり込んでいくのです。
 息が詰まりました。口を開くことすらままならない私へと、主治医は何かいわなければならぬと思ったのかもしれません。こちらに運ばれた時には既に手遅れであったとか、最善は尽くしたとか、多種多様な口上が述べられていたように感じられますが、いくら言葉を積み重ねたとて両親が戻って来ることはないのです。
「父と母の……顔を見させてください。きっと、何かの間違いっていうこともあるかもしれないじゃないですか」
 私は確認をしなくてはならない。警察の人が私をここへ連れて来た理由というのもそれこそが本筋なのでしょうし、彼らの職務を差し引いたとして、娘の私にはそれをなさなくてはならない責務があるのだと感じています。
 おそらく私は相当に虚ろな面をしていたことでしょう。白衣は思慮を秘すことなく憂うような目でして私を暫し見つめ、やがて大きな溜め息ののちに病室へのドアを開け、その内に入ることを許します。
「いずれにせよほむらさんには身元確認のためにご両親のお顔を認めてもらわなくてはならないのですが……如何せん、激しい事故でした。遺体の損傷が激しいため、ショックであるかもしれません。お気を確かに持って臨んでください」
 私は霊感であるとかそういうものに自身が無縁であることを十分に自覚しているのですが、ドアマンを努める彼の横をすり抜けて這入った部屋の中は、まるで様子が違っていると感じました。何というのでしょう。有り体に例えるならば、空気が、空間が、一面が死の色と臭いに塗れているようなのです。
 そこは私が望んでいるような希望的観測が一切存在しない、絶対的なまでの静寂と、終わりの概念のみを詰め込んだかのような箱でした。私はまるで足がすくむようで、鼻の奥がつんとするような感覚に見舞われたのですが、それでも務めは果たさねばなりません。
 両親はそれぞれ別のベッドで横になっています。各々の顔の部分にはあの、経験が浅い私には何と呼ぶのかが分からないのですが、死者の面を隠すための白布が被せられており、場違いだということは分かっているのですが、両親の死を裏付けるかのようなその覆いに私はひどく不快感を覚えました。
 否定せねばなるまいと。私は憤怒の念で以てして、まずは母のそれを除けます。
「ひっ……」
 然れど、諸行無常。現実は残酷なものでした。
 主治医は、それでも相当に頑張ってくれたことでしょう。母の面の至るところにはガーゼや、化粧が施してあり、本来からの変形を可能な限りに際立たせぬようにとの苦心が見て取れます。
 私は振り返り、もう、諦めの心でして父のそれを淡々と剥ぎました。
 ――そこにはやはり母と似たような態が広がっており、当たり前のことですが二人共に呼吸をしていません。肌の色や血色こそ未だ従来を保っておりますが、それもあっという間に代謝を失っては二人の維持の柱を脱落させていくのです。
「う、うっ……」
 私は堪えることも敵わずに涙を流していました。
 悔しさだとか悲しさだとかそういうものではなく、ただただ大きな絶望に胸の中の大きな部分を穿たれて、空いた穴から感情のプールが漏れ出ていくかのような、激しい流れです。
「お父さん……お母さぁんっ!」
 そうして両親の死を確認した私は、年甲斐も何もあったものではありません。大きな声を張り上げて泣き出してしまい、身体に障ることを分かりながらも、止めることが敵わないのです。
 加減など効くはずもなく嗚咽と咆哮を繰り返していると、やがて喉の奥から止められない程の咳の衝動が湧き起こり、これはよくない兆候でした。私は必死に抑えるように努めるのですが、敵いません。喉元で止まっていた蠕動のような違和感は、やがて気管を下って身体の内側の深いところにまで潜り込んでいくのです。
「う……ぁ……っ」
「いけない、ほむらさん!」
 まるで膝に力が入らず、ぜえぜえと喉を鳴らしながら、私は崩れ落ちるように両親の眠るベッドに縋り付きます。
 こんなにも強い発作は久し振りのことで、呼吸を整えたり精神を落ち着かせたりという、普段は反射的に行なっているであろう悪化に対する防衛策すらままならない状態でした。
「パパ……マ、マ……」
 瞳孔が拡散し、シーツや室内の壁面の白が眩しくて仕方がありません。刻一刻と自らの容態が悪化していくことを感じると同時に、絶望に塗れた心はこれすらをある種の些事と捉えているような節がありました。
 最愛の人たちであった父と母は、もうこの世にはいないのです。
 どうしてか、薄ら寒い程に綺麗な心持ちでした。命の力が少しずつ失われ、ゆっくりと、しかし確実に自らが死に歩み寄っていくに連れて、私が今まで生に執着するために作り上げた歪な造形物が整理されていくかのようです。この積木の全てが片付けられた時、きっと私はこの世に私という形を保つことが出来なくなり、そうして父と母の元に一緒にいくことになるのかなと思いました。
 何だか、それも悪くないですね。頑張って、苦しんで、父と母に、人々に迷惑ばかりを掛けて、そうして生きて来た十数年の末路がこれであるのです。
 父や母は私を産んで、幸福だったのでしょうか。二人の子として生まれたことは私にとっては幸福でしたが、私の身体については不幸以外の何物でもなかったと思っています。結果を知った上で二者択一と出来るならば、きっと二人もこんな選択をすることはなかったことでしょう。
 ――もう、いいですよね。
 身体の重さは今までにない程の域に達しており、きっと私についてもここまでであることでしょう。いえ、いっそそうなってしまえばいいとさえ思います。
 大切なものが失われたこの世界で、私が生きていく意義というものはもはや存在しない。こんな状態で生を拾ったとて、それは死んでいるのと全く同義です。私にこれ以上の絶望はもう、必要ないのです。
 パパとママは、ありがとうございました。
 輪廻転生なんて概念が本気でこの世界に成り立っているとはとても思えませんが、それでも思うだけなら自由なことだと感じます。
 どうか今回の分まで、二人と私の次が、幸せに満ち溢れたものでありますように。

20130803_Laplace.jpg



(本文サンプル8 了)

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テーマ : 魔法少女まどか☆マギカ ジャンル : アニメ・コミック

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