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2013.07.26 (Fri)

『Laplace』 Part.1 -Past Days- 文章サンプル7

『Laplace』 Part.1 -Past Days-の文章サンプルその7になります。

【More・・・】






「おう、ほむら、ただいま」
「おかえりなさい、お父さん」
「ほむらちゃん、ちょっと手伝ってもらってもいいかしら」
「うん、いいよ」
 父は額にうっすら汗を浮かべて、今日もお疲れなのでしょう、沈み込むように椅子へと深く腰掛けています。
 私は母から順番に皿を受け取り、併せて各自の食器をテーブルの上へと並べていきます。
 サラダや焼き魚を淡々と並べてゆき、最後にご飯を盛り付けて終わりと思っていたのですが、開いた炊飯器の中身は見慣れた白色のそれではなく、明らかに赤味掛かっており、ああ、何ということでしょう。日本では慣例的にこのような催しをするものだと先程のインターネットでも書いていましたが、本当にやるとは思っていなかったものですから驚きも一入です。まさか父がこれの意味するところを知らないということもないでしょう。
 母は味噌汁の仕上げに取り掛かっていますし、ともあれここまでやっておいて私が完遂しないというのもまた不自然な話です。観念して三人分をよそい、テーブルへと並べていきます。
「おや」
 父の前に茶碗を置くと、やはり父はその中身に気付いてそうして声を上げるものですが、「あなた」とやんわり母に窘められ、大人しくなります。私としてはその気の遣い方それ自体が既に居た堪れないもので、顔の色を米と一緒にして肩身も狭く席へと着くのです。
 やがて母が味噌汁を各自に配膳したあとに、普段は飲み過ぎてはいけないからとなかなか出さないものですが、父の前に瓶ビールとグラスを用意しています。もっとはしゃぐものだと思っていた父は――以外にも神妙な顔付きでしてグラスを手に取っており、母からの酌を粛々と受けています。
「じゃあ冷める前に食べましょう。戴きます」
「戴きます」
「戴きます」
 母の声に併せて父と私が唱和するのですが、どうにも父の様子がおかしく、普段はご飯となると一等元気に取り掛かるものですがどうしたのでしょうか。お腹でも痛いのかなと思っていたら、グラスを持ったまま、唐突にもう片方の手で面を覆っては肩を震わせているのです。
 今までにこんな様子の父を見たことがないものですから、すっかりと驚いてしまった私がご飯に手を付けられずにいると、「ちょっと、すまん……」と一言断ったのちに父は席を立ち、玄関の方へといってしまいました。
「先に食べてていいから、ちょっと待っててね」
 間を置くことなく母がそれに追従します。私もいった方がいいのかなとも思ったものですが、母の指示は待機であることに思い至り、それでもやはり気になって仕方がありません。私は扉をそっと開けて、玄関の方を覗き見るようにしました。
 結果としてそれは、やらない方がよかったのかもしれません。背中しか見えないものですから正確には分からないのですが、どうにも父は泣いているようで、なだめる母も片手を目元にやっては何かを拭うような仕草を繰り返しており、これを受けた私はすっかりと困惑をしてしまいました。
 音を立てぬようにそっと扉を閉めて、現状を維持。何事もなかったかのように食事へと戻る振りをします。
 箸を動かそうとするものですが胸中は混乱の念でいっぱいで、察しの悪い私ですが、流石にこの度の事由については合点がいきます。
 おそらく父は、私の身体の変化に何かしらの思うところがあったのでしょう。フォローをした方がいいのかなという想いもあったのですが、何分話題が私自身のことでもありますし、大人である二人の経験に対して私が満足な対応を出来るという自信もありませんでした。
 少時悩んだ挙句、ステイを方針として打ち出した暫くののちに、すっかりと落ち着いた様子の二人が食卓へと戻って来ては、何事もなかったかのように食事へと取り掛かり始めました。
「いやあ、よく冷えていて美味しいなあ。母さん、お代わりをもらってもいいかい」
「もう、今日は特別ですからね。飲み過ぎちゃいけませんよ」
「分かってる、分かってるよ。だがまあ、今日くらいはいいだろう。生まれてこの方、今日程に気分がいいのは両手で数えられるくらいしかないよ。ちょっとくらいはしゃがせてくれよ」
「全く、仕方がないんですから」
 調子のいい父に対して、いつもは作法などに厳しい母もそれ以上追求することはしません。苦笑いをしながら汗をかくグラスに次の一杯を注ぎ足すのです。
 先程の様子とは一転して二人共、本当に上機嫌といった態です。父は見た目からして分かりやすく、実に楽しそうにご飯を食べていますし、母も何というか、ここ最近はどうにも疲れがちな雰囲気を感じることが多かったものですが、今この瞬間においてはそんな気配など微塵も見受けられません。
 親子というのはどうにも不思議なものですね。父も母も普段は私のために苦労し、仕事を頑張り、看病を行い、それをこなす理由というのはたった一つだけ、私が二人の娘であるからという故のみであるのです。
 喜びに関してもそうです。私がこうして成長の証を刻んだことを二人はまるで我がことのように取り上げて共有し――この扱い方にはどこか宗教的なそれを感じさせるのですが、あるいは自分の子供というものはそのような存在であるのかもしれません。私はまだ自らのお腹を痛めた出産など経験しようもないものですから、およそ及びの付かない、感慨のようなものがあるのでしょうか。
「いやあ、よかった、よかった」
 父は明らかにペースが早く、何というか、自分の親がアルコールでして理性を失っていく姿を見るというのは、どうにも居心地の悪い想いがあります。母も普段は私に対する斯様な影響を考慮してこの様をあまり見せたがらないのだろうなと思うと、全く以てその判断は的確であったと感じます。私のことをよく理解しており、頭が上がりません。
「お父さん、あんまり飲み過ぎちゃダメだよ」
 つい、母に倣ってそうやっていってみることとしました。特段に強くもない父はすっかりと出来上がってしまっており、「ああ、分かってるさ」とそれだけを呟いて気持ちよさそうに大口を開けてグラスを煽ります。
 これはもうどうしようもならないなと、母をちらと見遣るとやはり苦笑いを浮かべた面がそこにはあり、どうにもおかしくなって私たちは吹き出してしまいます。
 まあ、本当にたまに。こうして私の節目として赤飯を炊ける機会もそうそうないのでしょうから、今日くらいは甘んじて受け入れるべきなのでしょう。
「お父さん、ご飯のお代わりは要る?」
「おお、頼むよ。半分くらいでいいよ」
「お味噌汁も足すわね」
「ああすまない。いやあ、おめでたい上に母さんの料理は本当に美味しいし、至れり尽くせりだな。今日はとてもいい日だよ」
 当事者たる私自身が喜びの実感を今一つ覚えられないのですが、人生の内の、決して短くはない時間を私のために尽くし続けている両親が充実を感じることの出来る、今はきっとそういう数少ないタイミングであるのです。私は二人に恩返しをすべきに違いありません。
 幸いにもこの日の私は体調を大きく崩すこともなく、いつもより少し遅くまで父の晩酌に付き合い、久方振りに前向きな、私の夢であるとか、なりたい職業であるとか、そんな明るい話題に満ちた親子の会話というやつをした気がします。
 平素はどうしても私の不調が先立つものですから、なかなか話し辛いこともあったりします。こんな機会でもないと出来ないこともあるでしょう。
 少し開放的な両親と、ちょっとだけ胸がむず痒くなるような話をして、気付いたら私にしてもとても充実した時間となっていました。
 眠ることさえ忘れて、母から身体に障ってはいけないと自室に押し込められるまで、私は今日という日を十二分に堪能し、どこかふわふわと熱に浮かされたような心持ちで眠りに就きました。
 ひょっとしたら私は次第によくなっていって、いつか両親から自立することも叶い、二人に恩返しをすることが出来る日が来るのかもしれません。先が長くないといわれ続けながらもこうして細く長く頑張って来られたのです。きっと、そういう希望に満ちた未来だって私には用意されているに違いありません。ささやかな夢に向かって私は頑張ってゆかねばならないのです。
 そう決意を新たにした夜長。何ということはないけれども、それでも私の人生において大きな節目となるに違いなかった、大切な一日を経て――。
 両親が亡くなったのは、それから、たった三日後のことでした。


(本文サンプル7 了)


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テーマ : 魔法少女まどか☆マギカ ジャンル : アニメ・コミック

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