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2013.07.12 (Fri)

『Laplace』 Part.1 -Past Days- 文章サンプル5

『Laplace』 Part.1 -Past Days-の文章サンプルその5になります。

【More・・・】





 読み終える母の、締めの言葉を聞いたらばほうっと息を吐く私。いつの間にか夢中になってしまっていたようでした。
 うだうだと思い悩んでいたことも、お姫様が自身のために採るに至った選択やそれに対する帰趨を掘り下げるルーチンへといつの間にか置き換えられ、我ながら単純なものだなと思いつつ、しかし生産的なものです。
 私は純粋な好奇心と、母を安心させるための方便という二面性からして母と読後の感想会を開催し、こうすることも既に一度や二度ではないのですが、話題は尽きません。同じことを議論したとて、その時の気分や考え方によって以前とは違った含みを劇中に見つけることが出来たりするのです。
 その時の私は、どうにも魔女のことが気になっていたようでした。
「どうして魔女さんはこんなにひどいことをするんだろうね。みんなが嬉しい方が、きっと幸せだと思うのにな」
 私の問に対して母はそうねえ、と一寸考えるような素振りを見せてから、
「こういう物語には、このお姫様のように正義のヒーローのような人が登場するけれども、だからこそ魔女のような悪役が必要になるのかもしれないわね。きっとそうしないとヒーローのような人たちのお仕事がなくなってしまうんじゃないかしら」
 そうやって母はいうのですが、何というかその答えは、その時の私の気分にはどうにも当てはまらず、ついつい聞き返してしまいます。
「じゃあ、魔女は正義のヒーローに倒されるためだけに作られたことになるの?」
「この物語の場合は、そうかもしれないわね」
 断じる母にどこか納得のいかない私は、そもそもそういう風な作品作りに対する作り手側のお話をしたい訳ではなくて、もっと中身についてのやり取りをしたかったのですが。
 物語構成上仕方なくという理由はこの絵本の世界の中ではない、これを作った作家さんベースでの勝手な都合なのであって、一度彼に生み出されてしまったお姫様や魔女からすると、彼女たちの世界はこの本の中に収められた絵と文章が全てなのです。私は、神たる作者に作り上げられた彼女らにとって、ただ事実として存在する本の中身についてのお話がしたい。
 我ながら考え方が面倒くさいかなあと感じながら、それでもどうせ時間だけは余っているものですから、私の意図をしっかりと伝えることにします。何度もつっかえながらそれでも何とか伝え切れたその先には、嬉しいのか困っているのか、どこか微妙な顔つきをした母がそこにいました。
「ほむらちゃんはすごく難しいことを考えられるのね。ママもそこまでは考えようと思ったことはないわ」
 母はそうやって前置きした上で、でもそうねえ、手を頬に添えては明後日の方向を見るようにしながら話を次ぎます。
「ほむらちゃんはまだ小さいからよく分からないかもしれないけれども、この世の中って、いいことがあった分だけ見えないところに悪いことが起きているものなのよ。例えばスポーツとかにしても勝つチームがいれば負けるチームもいるでしょう? 負けることが一概に悪いことだとはいわないけれども、それでも普通は勝って終わることが出来た方がいいわよね。このお話もそういうことなんだとママは思うわ」
「お姫様がいいことをするから、そうやって悪いことをする人が出て来たの?」
「逆だと思うわ。悪いことをする人が出て来たから、そういうつもりがなくても素直で真っ直ぐなお姫様がいいことをする必要があったんじゃないかしら」
「うぅん……」
 どうにも、頓智を掛けられたような感触です。これが年の功というやつなのでしょうか。
 聞きたいことの本質はそういうところじゃなくて、もう少し私のフィールドに持って来た上での会話をしたかったものですが、この胸に引っ掛かるようなムズムズを正確に言語化する術を私は持ち合わせておらず、こういう時に何とはなしの話運びをしても大概はまとまらずに終わってしまうことを、経験から知っています。そして、そうなった際のムズムズは今感じているもの以上の度合いとなるのです。
「世の中って、難しいんだね」
 結局そんな生意気なことをいってまとめて、一先ず私が納得したような素振りを見せたものですから、ほっとしたような母もティーブレイクを提案して来るのです。私にも否やは非ず、今回の議論はここまでとなるようです。
 これは知恵熱のようなものなのでしょうか。火照っているような、少しだけ熱っぽい頬を両手で包みながら私は上体を寝床に倒すようにします。
 件の絵本を視界の片隅に置きながら、さっきはものの弾みでいった節がありますが、本当に世の中というものは複雑怪奇であると感じます。絵本のテーマに関する意図一つを取ってもこんなに難解なのですから、たくさんの人が犇めき合うように混在するこの現実の世界におけるそれは、より一層なものでしょう。
 思想も信条も千差万別な何十億という個体に対してそれぞれの意志が働いていて、それらが危なげなく――あるいは私が理解をしていないだけで何らかの不和は生じているのでしょうが――一つの群れとして共存しており、加えて包括されるような形で、自身もその大きな社会の中の一員として存在しているのだという事実は、こうしてベッドで横になるだけで何もかもが精一杯の私にとってとても大きなもののように感じられて、無力感や、圧倒的なスケールを覚えずにはいられませんでした。
 それは、うだうだと悩んでは暗くなるような類の面倒な感情ではなく、ただただ事実に対しての関心や放心に近いものであったと思います。
「ミルクでよかった?」
「うん」
 倒した身体を再び起こしながら、母の手から程よく温められたホットミルクを受け取ります。母は私が熱過ぎても駄目なことを承知しているので、もらってすぐ飲めるような温度加減となっています。
「おいしいね」
 適温と、ほんの少しだけ溶かしてある砂糖とが私の好みを刺激します。カップを少しずつ傾けながらちびちびとやる私は段々といい気分になって来て、次第に眠気を覚えて来ました。
「眠いなら無理をしないのよ。残してもいいんだからね」
 母はそういうのですが、せっかく淹れてもらったものを無駄にする訳にはいきません。急ぎ過ぎない程度に中身を空にしては、いよいよ私は意識を保つのが難しくなって来ました。あるいはこれが母の意図であったというのならば体よくあしらわれた形となるのでしょうが、今の私が覚醒していたとて母にとっては面倒以外の何物でもないでしょう。
 どうにも頭が上手く回らないのですが、どうして私はこうも人の邪魔にしかならないのかなあと、漠然とした悔しさと無力感とを覚えている気がします。
 果たして私はどこかで挽回出来るのでしょうか。
 幸い、というにはどうにも語弊がありますが、今はまだ父と母の庇護の元に生きることをどうにか許されているような段であることを理解しています。またそれは、二人に多大な負担を掛けた上で成り立っている生活であることも分かります。
 どうにも、本気で歯痒い思いです。両親の優しさが却って私を縛り付けるようです。
 この世界の本質というものは、こんなものなのでしょうか。
 私は、一体どのような人間になれるのでしょうか。



(本文サンプル5 了)


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テーマ : 魔法少女まどか☆マギカ ジャンル : アニメ・コミック

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