--.--.-- (--)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2013.07.05 (Fri)

『Laplace』 Part.1 -Past Days- 文章サンプル4

『Laplace』 Part.1 -Past Days-の文章サンプルその4になります。

【More・・・】




   ***

 どうにか騙し騙し、根本解決の図れない不調を日々なだめすかしながら、それは私の主観からすると大変に長い時間であったのですが、それでも気付くと私は義務教育を受けるべき年齢まで生き長らえることが出来たようでした。
 入学というイベントによって自身の成長を実感出来ることは、私にとってとても喜ばしいことであったのですが、残念ながら世間で定められた制度と、私が持つ事情との間に大きな乖離が生じていたことはいうまでもありません。学校の、特に小学校のように小さな子供たちの集う間ではとにかくスタートダッシュが肝要であるというのに。
 周囲に私という存在を認めてもらえるよう、また万が一にもいじめなどを受けぬよう――私にとっては冗談ではなくそれはきっと死活問題となり得るのですから――入学前はそればかりを懸念していたものですが、いずれにせよ心配事の大半は杞憂に終わることとなったのです。
 時節の区切り目故にこれからは特段に強くありたいと、シャンとしなくてはならぬと一つ念じただけで体質が改善されるようであれば何も苦労はないのですよね。
 私の主観では、それでも少し前に比べると幾分かは丈夫になったものですから、あるいは気の持ちよう一つで多少なりとも上手くいくものかもしれないと思っていたのですが、それはあくまで希望的観測であったといえましょう。
 結局、入学してからの暫くの時間を保健室、あるいは自宅か病院で過ごすことを余儀なくされた私は、これではまるで以前と変わりはしないなと感じていました。いっそ、その気になれば同級の人らと勉学を共に出来るかもしれないという人参を目の前にぶら下げられていた分だけ、余計な気負いがあったように思います。
「今日はあまり天気がよくないわねえ」
 その日も、私は朝から体調が思わしくなかったために学校を休んでおり、母は私のために家で控えています。
 こうして平日だというのに私に付きっきりで看病してくれるようなことは以前の職では出来なかったように思うのですが、おそらく、母は仕事を変えたのでしょう。
 理由を聞いてもその真意を教えてはくれないので、あくまで察するしかないのですが、どうやら私が病院で寝たきりになっているそれだけでも、とてもお金が掛かるようなんです。
 いつだったか、私が退院するその時に母が会計を済ますところに立ち会ったことがあるのですが、受付の口から発せられた金額はとても信じられないような額でした。帰りのスーパーで母におねだりして買ってもらったメロンパンが、百とか千程並んでもとても敵わないような大きなお金です。
 私は子供だったものですから、自身について一般的な金銭感覚というものが欠如しているということを自覚しつつ、それでも気付いてしまったのです。私がこうして入院し、あの清潔な空間において二十四時間体制で過保護にされるということは、図らずとも我が家の家計を圧迫し、父と母に多大な負担を掛けてしまっているのです。
 母がライフスタイルを変えたのもおそらくそのせいなのでしょう。両親が仕事で不在となって私が常に入院するようなことになるくらいなら、母だけでも時間に都合のつく仕事を選択して私を自宅療養させた方が、トータルとしては以前よりもプラスになるのかもしれません。
 そうすると、私は以前より入院の頻度が減って来たために体調が向上して来たのだと考えていた節がありましたが、これもどうなのでしょう。私が今立てた仮説が正なのだとしたら、まるで勘違いであったということになります。
 何だか、途端に自分が惨めに感じて来ました。病院の、あの閉ざされた部屋で寂寞を感じながらに耐え忍んだ数年は正直なところ私にとってあまり好ましい時間ではなく、それでも、実際に負担の掛かっていた父や母からすると私以上に辛いものがあったように思います。
 これは一体何なのでしょうか。私が嬉しい訳でもなく、誰が嬉しい訳でもなく、それでも生活をするために必要な、両親が汗水流して稼いだお金だけがただただ何をするでもなく私の不調のために消化されていくのです。まるで悪夢じゃありませんか。
 この時が初めてであった訳ではないのですが、齢を重ねて少し難しいことを考えられるようになっていた私は、ある程度の想定と目の前に提示される数々の事実から、どうしても思わずにはいられなかったのです。そう、
「私って、もしかしていない方がいいのかな」
「え、どうしちゃったの急に。ほむらちゃん?」
 胸の内にのみ留めておくつもりだった言葉が思わず口を衝いて出てしまって――いえ、そういうずるいいい方は止めましょう。私は私の苦悩を口に出すこと、それを母に聞かせることによって慰めを頂戴し、きっとこの不安や衝動を発散したかったのです。
 我ながら、自身に対して強く自己嫌悪の感情を覚えます。こんなことをして一体何がしたかったのか。ほら、母もすっかりと困ってしまって、こういうのはいけないことです。ただでさえ私は周囲に迷惑を掛けてばかりでいるのに、私自身がこうして捻くれてしまって、それはもう破滅的ではありませんか。
「ううん、何でもないから」
 一先ずそうはいってみたものの、これだけで母の追求が止むことはありませんでした。
 彼女も伊達に何年も私の親をやっている訳ではなく、結局私はどういう考え方をしたその末に先程の発言に至ったのかということを洗いざらい自白することを強要されます。
「ほむらちゃんはね、考え過ぎなのよ。子供なんだからそういうことは考えなくてもいいの」
「でも」
「大丈夫よ。ほむらちゃんが思っているような悪いことなんて一つもないからね。安心してパパとママに任せていればいいのよ」
 そうして母は私の前髪をくしゃくしゃとやり、それで私の反論は封じられてしまいます。具体的にどこがどう大丈夫なのか説明されなかったことがどうにも腑に落ちないものですが、これ以上私が追求したところで、それはきっと母を困らせるだけでしょう。そして母を困らせてしまっては、きっと私も困ってしまうに違いありません。
「うん、分かった。ごめんね、ママ」
「ほむらちゃんが謝ることなんてないのよ。きっと、ちょっと調子が悪くて元気がなかったのよね。そうだ、ママと一緒にご本でも読みましょうか。ちょっと待っててね、ほむらちゃんが好きなやつを今持って来るわ」
 そうして止める間もなく去ってしまう母としては、この話はここまでなのだという言外からの提案なのでしょう。私としてもそれがいいと思います。今みたいなことをこれ以上続けると、きっとおかしなことになってしまいます。
 私は、異常なまでに虚弱な私の身体のことをあまり好きではありませんでしたが、私を産み、愛してくれた優しい父と母のことは好きです。時偶、私のことを丈夫に産んでやることが出来なくて申し訳ないと謝罪する両親の、それはどうしようもないことでしょうに、その顔を見ると切なくもなってしまいます。
 二人からそうされたならば仕方のないことなのかもしれませんが、私がぐずって斯様な発言を引き出すことは頂けません。既にある事実は事実として変わることはないのです。それに対していかに上手くやっていくのか、今の私には適応こそが重要な課題なのでしょう。
「それじゃあ始めるわよ」
 やがて、私がお気に入りだという一冊を持って来た母が床の横で朗読を始めるのですが、その本は絵本のようなものです。流石に年甲斐を感じては気恥ずかしくもなる私ですが、お城の中で何不自由なく暮らしていたかのように思えたお姫様が真の自由を求めて外へと飛び出すというお話は、何不自由なくというその一点を除けばどこか今の私の事情にマッチするような心象が綴られているようで、どうしてか彼女の勇敢に勇気付けられる気もするのです。
 前提の説明もそこそこに、お姫様は先の見えない冒険へと飛び出します。つい先日まで自らの髪を結わうのさえ人任せであったような彼女は、自身にとっての本当の自由とか幸福というやつを求めて、東へ向かっては火を吐く巨大な竜へと挑み、西へ向かっては全てを黒く染め上げる絶望の魔女を刺し貫き、そうやって彼女のゆく手を阻む障害を乗り越えていくのです。
 冒険の果てに、お姫様は頼りないけれどもとても優しい木こりの青年と結ばれることとなっています。彼が切り出した木から二人で作り上げたささやかな住まいは、お城のそれに比べるととても質素だと感じられますが、どうしてでしょうか、私はお姫様の結末がとても幸せに満ちたもののように感じられるのです。
 作中の彼女もクライマックスのシーンでは満面の笑みを浮かべており、お話としてもやはりそのような意図を含ませてのものなのでしょう。何もかもが順風満帆ではないですか。私は物語のお姫様に本気で憧れることさえする程です。
「めでたし、めでたし」



(本文サンプル4 了)


本文サンプル5へ

スポンサーサイト

テーマ : 魔法少女まどか☆マギカ ジャンル : アニメ・コミック

19:40  |  その他情報@DoJing  |  TB(0)  |  EDIT  |  Top↑

*Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://12stories.blog38.fc2.com/tb.php/586-d31b990b

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。