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2013.06.21 (Fri)

『Laplace』 Part.1 -Past Days- 文章サンプル2

『Laplace』 Part.1 -Past Days-の文章サンプルその2になります。

【More・・・】






『Past Days』

 ―― Homura ――

 思い返すと、幼い頃の私は、それはもう大変に病弱であったと思います。
 私の記憶が正しければ、私の両親は滅多に病気をすることもなく健康そのものであった気がするのですが、どうしてでしょう。私は生まれながらにガラスの心臓を持ち合わせて来ることを余儀なくされました。
 何でも、私は生まれて間もなく、父と母の腕に抱かれることすら許されずに集中治療室へ連れていかれるような態だったそうです。そこであっという間に余命幾許もないとの宣告を受けることさえしました。
「あの時のことを思うとほむらの心臓がどうこういう以前に、パパの心臓こそ止まりそうになったものだよ」
 のちに父から冗談交じりに語られたものですけど、今考えてみるとどうにも笑えないブラックジョークであると感じます。あるいは、父にとってはこうして笑い話にでもしなくてはやっていられない程に苦い記憶であったのでしょうか――まあ、当事者ではなく産んだ身であるからこそ思うところもあるのかもしれませんね。今となってはその真意を知る術もないものですが。
 そんな調子でいたものですから、私は年頃となっても幼稚園に通うことも敵わず、そのほとんどの時間を病院、あるいは自室のベッドの上で過ごすこととなりました。
 大げさでもなんでもなく、ふとしたきっかけでこの力ない心臓が悲鳴を上げてしまわぬよう、絶対の安静が必要だったのです。
「ねえ、ママ。どうしてわたしのお胸はいつもこんなに具合が悪いの?」
 時間を余すと、普段は当たり前だと感じているこの世の中の仕組みのようなものを改めて掘り下げてみようと、益もないことに想いを馳せるようになるのは果たして私だけでしょうか? その時がまさに斯様なタイミングで、他意はなく、私としてはただ純粋に私とほとんど違わぬ体型をした子らが外で元気に飛んだり跳ねたりしているというのに、ともすればベッドから起き上がっただけで貧血を起こすような私の身体の内側はどうなっているのだろうと、単純な好奇心から気になったものだったのです。
「ごめんね、ほむらちゃん。元気な身体に産んであげられなくて、ごめんね」
「ううん、違うの、ママ。そうじゃなくてね?」
 私の母には、やはり負い目のようなものがあったのでしょう。それこそ酒もタバコもせず、妙な薬にも手を出していなかったはずの彼女としてはこれ以上の準備万端はなかったはずです。
 その上で敢えて貧弱を選び生まれて来てしまった私こそがその苦心を引き受けるべきなのであって、それでも、やはり親というものは難しいものなのでしょう。日常のふとしたきっかけで一々いじける彼女を慰めるのが、こんな私にも出来る重要な役割の一つでした。母の落胆の最たる原因が自分自身というのは、何とも皮肉なものでしたが。
 ともあれ、それはそれ、これはこれです。私だって知りたいと思ったことは知りたいものです。取り留めがないとはいえ、自身の身体についてのことでもあったので、その時の私にとっては重要なことだったのだと思います。
 私は母に、そういうどうにもならないところをわざわざ引っ張るつもりではなかったのだと、ただ単純に、こうやって見た目だけでいうなら他の子供たちとほとんど変わらないというのに――私の場合は少々痩せが過ぎる感もありますが――そこに生じる差は何が原因で成り立っているのかと、そういう建設的なお話がしたかったという旨を舌っ足らずな口調と貧相な語彙で以て必死に伝えたものです。
「ほむらちゃんはいい子ね。小さいのにそうやってしっかりと考えられるんだもの」
 他での自由が利かないからでしょうか、母は私がこうやって少しでも頑張る素振りを見せたなら、それを精一杯に褒めちぎるのです。大げさな、とか、少しこそばゆい感じもありはしましたが、大好きな母にこうして褒められることが私は嫌いではありませんでした。
「簡単にいうとね、ほむらちゃんは心臓が少し弱いらしいの。心臓って分かる? ……うん、いい子ね。そこはね、身体の中でもすごく大事なところで、体の隅々まで栄養を送るために一日中ずうっと頑張って働かなくちゃいけないの。ほむらちゃんは、心臓の大きさとか、壁の厚さが普通の子たちとはちょっと違うみたいでね。本当に、測ってみてもきっとそんな大した差にもならないと思うのにね」
「そんなに違わないのに、こんなに違うの?」
 私はまず自身の胸元に触れ、それから窓の外、自らの足でしっかりと地を踏みしめて歩く人々らを見下ろしました。私が詰め込まれているこの病室はとても高いところにあるので、眼下には周囲の風景を一望出来る程の絶景が広がっています。
「そう……ね。ママにもよく分かっていないんだけれどね、心臓が正しく働くためにはしっかりとご飯を食べることとかも大事だけれども、形だとかサイズもちゃんとしていないとダメみたいなの。形が悪いと動きがおかしくなってしまうし、サイズが合わないと身体に掛かる負担が丁度よくならなくて、ほむらちゃんが大丈夫でも段々と心臓の方が疲れて来ちゃうのよ。先生がそう仰ってたわ」
「そうなんだ。何だか難しいね。そんなの、身体の外側にあればぴぴって治せちゃいそうなのにね」
「ふふ、そうなら本当に……どれだけ楽なものだったかしらね……」
 そうして母はどこか陰を孕んだ笑みを浮かべて私の頭を撫でるのです。一頻りの問答をして疲れを自覚した私は、起こしていた身をベッドに深く沈み込ませて身体を楽にします。
 特段に何をいわずとも、ベッド下のレバーを操作して上体部の傾斜を調整してくれる母。この辺りの慣れが私の度重なる不調の副産物として得られたものかと思うと、我ながら憐れを誘って止みません。
「私の身体って、よくなるのかなあ」
 口を衝いて出た言葉は、私にしてみると重さなど微塵も伴わずふわふわと宙を漂うかのような気軽さであったのですが、母にしてはそうでなかったのかもしれません。悲壮感すら漂わせた面からは今にも涙が零れ落ちそうになっています。
「大丈夫。こんなにも頑張っているんだもの。きっとほむらちゃんは大丈夫よ」
 彼女の言を聞き、私は自分がちょっと不味いことをいったのだなと悟りました。世の中には、例え正しかったとしてもいっていいことと悪いことがあるらしく、この度の私の選択はどうやら後者に当たってしまうようです。
 母を悲しませてしまうのは私としても本意ではありませんでした。すっかりと身体に馴染んだベッドのスプリングと私の儚い体温で暖められたシーツの熱を感じながら、私は散りゆく意識の片隅で、私が手に持つ善悪の物差しをこの世界の基準に対して当て直すことをします。
 大丈夫です。こうすることできっと、次に起きた時に私はもっといい子でいられるはずです。母を悲しませることも減るでしょう。私は、私以外の人々に掛ける迷惑とか手間であるとか、そういう諸々の悪点を排除していかなくてはならないのです。
 それが、周囲に対して決して正の作用を及ぼすことの出来ない私に与えられた唯一の生業であり、また、定められた義務であるとも感じていました。
 それにしても、どうにも人間というものは不平等なものですね。私の身体さえこんなものでなければそもそも何もかもが上手く回るような気もするのですが――いえ、それは考えてはいけない類の発想である気がします。逃げるに如かず。私は焦燥さえ感じながらこの黒い黒い、何か粘着質な質感の塊に心が追いつかれてしまう前に意識を閉じることをします。
 然して、目の前に広がるのもまた先のなき黒でした。いつか私の辿り着く場所は、一体どんな色を見せてくれるものなのか、この時の私には分かりようもないのでした。


(本文サンプル2 了)


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テーマ : 魔法少女まどか☆マギカ ジャンル : アニメ・コミック

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