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2013.06.16 (Sun)

『Laplace』 Part.1 -Past Days- 文章&挿絵サンプル1

『Laplace』 Part.1 -Past Days-の文章&挿絵サンプルその1になります。

【More・・・】





『prologue』

 ―― Madoka ――

 目の前に広がる街並みは、絶望という他にない稀覯だった。
 人々が安全に、健やかに住まうべく誂えた剛健な建物たちは骨子となる部分だけを残すか、あるいはそれすらも敵わずに拉げるか、崩れ去り、末に周囲へとその生々しい内臓を晒している。
 彼らの庇護が失われ、図らずとも外界に対して剥き出しにされる態となった私の四肢を、情け容赦のない風雨が前から横からと煽る。生温い水滴が断続的に私の面へとぶつかっては爆ぜてゆくため、満足に瞼を開くことも敵わない。
 消防のサイレンがどこか遠くから聞こえて来る。もしくは私が遠くに感じるだけで、音は思った以上に私のすぐ側で、人々へと安全な場所への避難を呼び掛けているのかもしれないけれども、果たしてどうだろう。こんなにも圧倒的な状況を前にしては私如きのちっぽけな視覚、もしくは聴覚など、まるで信頼の置けるものではないとさえ思えて来る。
 方方、他方。それにしても、ああ。
 かつての、私の暮らしていたあの平穏に満ち溢れた幸せな世界は、取り返しの付かない程に瓦解してしまったんだ。
 少しでもいいから外の景色を眺めたい、たまにはこの閉ざされた部屋の向こう側の空気を吸ってみたいと、最近の私は満たされているというのに分不相応にも高望みをしたものだから、バチが当たってしまったんだろうか? 人間、欲が出ると万事がなかなか上手く回らなくなるのは世の常で、私のように無価値の塊といって差し支えのない人種にとって、この摂理はまた一層盤石のものであるのかもしれない。
 ただ、それにしたってこの仕打ちはあんまりじゃないか。やるならばせめて私一人にだけ罰を与えればいいと、神様か何か、斯様な存在が採ったこの無慈悲な選択については不平等を思わずにはいられない。
 原型すら留めず、すっかりと平たくなってしまった街並みを眺めながら、私は私の心が次第に冷え渡っていくのを感じていた。
 身体から頭に伝えられる刺激も、感度の悪い神経回路を通る内にどこかぼんやりと希釈され、まるで身体がふわふわと宙に浮いているかのような非現実感さえ覚える。いっそ本当に何もかもが夢であってくれればいいとも思うのだけれども、分かってる。私がいくら夢想を願ったところで、目の前の絶望を変えられはしないんだ。
「……まどか」
 轟く雷声へと重なる聞き慣れた彼女の美声。思えば、目の利く至るところに家財や建材が撒き散らかされているというのに、どうしてか私の周囲だけは大事に至っておらず、そうだ、これは偶然なんかじゃない。
「ほむらちゃん……」
 彼女と出会ってからが、全ての始まりだったように思う。平々凡々としていた私の人生は、ほむらちゃんと時間を共にするようになってからというもの、かつての調子を一変させては非現実に塗れていった。
 二人の時間を重ねるごとに私の中の標準、私の中の常識、そして、私の思い描いていた理想と、目の前の現実とが乖離していく。それはとても恐ろしくもあり、どうしてだろう、それでいて甘美でもあった。自分で自分のことが分からない、絶望を目の前にして尚も自身に覚えるこの客観。私という個体はこの広い世界の中で、もうとっくに迷子になってしまっていたのかもしれない。
「まどか。私は、私は結局、あなたを……」
 ほむらちゃんはその綺麗な面を悲壮の色に染め上げ、私に対する懺悔の言葉を繰り返した。そして、私の知識では解読をすることの出来ない何か難しい概念のようなもので、私たちが見舞われたこの因縁についての理を紡ぐ。
 私にとってのほむらちゃんはまるで魔法使いのようで、これは比喩でも何でもなく、彼女が普通の人間では到底なし得ないような、奇跡と呼ぶ他にない所業の数々を発現させる瞬間を何度もこの目に焼き付けて来たんだ。
 彼女のやることなすことは大抵の場合において正しく――いや、そもそも正しいかどうかなんてもはや私には関係のないことだった。鹿目まどかにとっての暁美ほむらはこの世界においての絶対なのであって、その彼女がして私に対し、こう断ずるのだ。
「私はまた、あなたを守ることが出来なかった」
 ああ、そうなのかと。ここに至って私は全てを悟る。テレビのニュースでスーパーセルだとか超大型竜巻の発生だとかいっているこれは、きっとほむらちゃんの特別性にも関係のある、そっち側の世界でのお話なのだ。
 そこに介する原理なんてものは分からないし、仮に知り得たところでこの目に映る現実程に雄弁に事実を語るものもない。その上でしてほむらちゃんがいうんだ。私に残された時間というやつはもう、長くはないんだろう。
「ねえほむらちゃん。私はもう、ダメなのかな」
 口から零れるかのように言葉を漏らした途端に、彼女の仮面はいよいよ決壊し、ありのままの情を私へとぶつけに掛かる。
 ほむらちゃんは、やっぱり難しいことをいっている。
 今ここにいる私を救うために、彼女は別の世界からやって来たのだと。何度も何度も同じ時間を繰り返し、私を助けるというただそれだけのために、この救いようのない運命を変えようとしているのだと。そして、全てはインキュベーターと呼ばれる存在との契約から始まった、悲劇という他に呼びようのない私たちの因果であるのだと。
「私にもっと力があれば……まどかを、あなたを幸せに導くための、力が……」
 そう嘆き、ほむらちゃんは泣き崩れてしまう。困ったな。こんなにも参っている彼女を見るのは初めてのことで、むしろ私の方が戸惑ってしまうかのような態だ。
 だってこれは、私の常識からするとあってはいけないことなんだ。この大きな局面で絶対者たる彼女が自らの非を認めるということは、それはすなわち、いよいよ事態を打開し得る手立てがないということを厳然と示すものであって、私としてはこれはもう、自らの先、その終着について真摯に向き合わなくてはならないというそのタイミングに他ならないんだろう。
 どうしてだろう、思ったよりもさっぱりとした心持ちだった。自身が死の間際に何を思うのかということを考えては空恐ろしくなって頭を振った日もあったけれども、こうも逃れようのない道筋を提示されてしまっては、むしろ諦観が先立つものなのかもしれない。
 彼の日に抱いたような恐怖などは微塵も感じず、むしろ、この絶望の先を尚も生きていかなくてはならないというほむらちゃんのことを思うと、彼女への同情の念が先立つ。
 何か、出来ないかな。さっきのほむらちゃんの話だと、ほむらちゃんはここじゃないどこか別の世界で、今の私じゃない誰か別の私が死ぬところを何度も見て来たといい、その言が額面通りのものであるとするならば、おそらく今ここに存在する私も遠からず彼女らの仲間入りを果たすということになるんだろう。
 きっとこの帰趨は覆すことの出来ない事項なんだろうと思う。こんなにも説得力溢れる材料を用意されてしまったんだ。頭の悪い私にもそのゴールについては何とはなしに理解が出来る。
 だとしたら、どうせ捨てるような命なんだ。ほむらちゃんのために出来ることをしてあげたい。彼女は私が魔法少女にならないように、私を守るといった。その、魔法少女というやつになるということは何かしらの奇跡を願う対価と引き換えに、人間を捨て、確約された死の運命と隣合わせに生きていくことを強制されるものらしい。それが事実であるというならば。
「ほむらちゃん、私、魔法少女になるよ」
 その言葉は、やはりほむらちゃんにとっての禁忌だったのだろう。既に終わりが見えている私の命に対してさえ彼女は頑なによしとすることはなく、だけれどもそれは感傷というやつなんだと思う。どうせ私はもうお終いなんだ。放っておけばただ捨てるだけになるような命にも何かしらの使い道が得られるというのなら、それ程に素晴らしいことはないんじゃないかな。
「まどか、私は本当に……あなたにひどいことばかりして」
「泣かないで、ほむらちゃん。私ってほら、バカだからさ。ほむらちゃんのいってること全部を分かりはしないけれども、でもこれはきっと仕方のなかったことなんだと思うよ。だって、ほら、こんなの出来っこないよ。普通じゃないよ。ほむらちゃんはこんなのと戦おうとしているんでしょう? 私なんかを助けるために何度も傷付いて来たんでしょう? だからいいんだよ。ほむらちゃんと会ってから色んなことがあったけど、私はほむらちゃんにとても愛されていると感じていたから。ほむらちゃんには何も悪いことなんてない」
「でも……私は!」
 綺麗な髪を振り乱しながら尚も反論を述べようとする彼女に、いくら何でもこの気持ちまでは否定してほしくはない。
 ほむらちゃんが口を開く前にその華奢な身体を精一杯に抱きしめて、彼女の主張を封じる。
「お願いね。いつになるかは分からないけれども、ここじゃないどこか別の世界の私を、きっとほむらちゃんが助けてあげてね」
「まどかぁ……」
 そうしていよいよ崩れ落ちる彼女を支えながらそっと地面に座り込ませてやって、いつからか私たちのすぐ側に座していた、マスコット然とした動物へと私は視線を移す。
「あなたが、インキュベーターなの?」
 彼は首肯し、何を聞かずとも語り出す。
 ほむらちゃんが漠然と語っていた内容をもう少し具体的にしたようなその提案は、なるほど、今の私のようにそうせざるを得ないと、その他には選ぶ道がないと追い詰められているような人間にとっては、この上なく魅力的なものと感じる。きっと別の世界の私も、あるいは私以外の誰かも、こうやって彼と契約を結んでは種々の運命を辿ることになったんだろうか。
 魔法少女となって魔女と戦う、その代わりに私の願いを何でも一つだけ叶えてくれる。ほむらちゃんがいうにはどれだけ上手くやっても、その末は惨めに死に果てる以外の道がないというこの契約の綾についても、私には既に拾うべく命というやつがない。何らリスクを背負うことなく、奇跡を成就することが出来るんだ。これはきっとほむらちゃんのために、そして、彼女を想う私のために用意された最高の舞台に違いない。
「ボクが説明出来るのはここまでだ。さあ、鹿目まどか。その魂を対価にして君は何を願う?」
 語りも熱の籠もるインキュベーターに対し、私がすべき願いは既に決まっている。
 今となっては力なく崩れ落ち、私の足元に縋るようにするほむらちゃんをそっと一瞥し――私は、たったの十数年で終えることとなった自らの人生に手向ける、最初で最後の祝詞を唱え上げる。
 果てに、永遠に続くとさえ思えた雨はいつの間にか止んでいる。曇天に突き抜けた日差しの下、ただありのままの私たちだけが、そこにはあった。


Laplace_1



(本文サンプル1 了)


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テーマ : 魔法少女まどか☆マギカ ジャンル : アニメ・コミック

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