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2011.01.15 (Sat)

friend(s) Part.2.5 (旧:けいおん! Part.4.5)

お待たせしました、けいおん!から唯と澪で3本目の、小話となります。
本日1/15は澪ちゃんのお誕生日でして、それに乗った企画となります。故に今回の更新で1話完結する内容となります。

Part3と4の流れを継ぎつつ、ノリだけを用いてのスピンオフのような作品に仕上げました。あの後にとにかく甘くしたならこういう感じだろうなあとそういうつもり、唯ちゃんと澪ちゃんが既にある程度仲が良いという前提で書いておりますので当該過去作に目を通して頂けますと、何か思うところが増えるかもしれません。

字数的には11000字強となっております。読書時間の参考にご活用下さい。

ではでは、続きから本編となります。お楽しみ頂ければと思います。
澪ちゃん、お誕生日おめでとう!

【More・・・】




 至高の、究極の、だなんて、そういう類の言葉は口に出したその途端に有難味や冥利が薄れてしまうような、そんな気がするのは果たして私の臆病な気質その故なのだろうか。
「お姉ちゃん、澪さん、ミカンここに置いておくね」
 セーターの上にエプロンを着込んだ勤勉な妹君が、肌寒そうな態を醸しながらもテーブル上に丸盆を置いていく。きっと彼女は私たちのために忙しい上に、しかしそれにも手慣れたものなのだろう。他には特段の発言を行うこともなく、来た足のままで再び台所へととんぼ返りをするその様子を見るだけの自身に生来の引っ込み思案が不満を申し立てるものだが、それも肩口から回された腕がベルトを成しては私の身を座席へと固定する。果たしてこれが今日という日の私の役割らしく、再三と反対を申し上げて来たがしかしそれら文句はいずれも叶わぬまま今を迎える次第となっている。一人だけに反対されるのであればまだしも、二人共に寄って集ってそうされてしまっては私に為す術などあったものではないだろう。
 早速、私を固定していた両腕が運ばれてきたばかりの盆へと伸ばされる。
「食べるよね?」
「うん……」
 何がそこまでなのか私には及びもつかないのだが、唯はとても上機嫌な様子で、鼻歌なんかを垂れ流しながら丁寧にミカンの皮を剥ぎ取っていく。『ふーふーん、ふーふふーん、ふふふーんふふーん(ねえ 神様お願い)』そうやって顔横をさわさわと摩擦するドテラの感触と紡がれたメロディの詩とが併せてこそばゆくては仕方がない。
 少し逃れよう、と。私は床に手を付き、砕いていた腰を立て直しては改めて彼女へと寄り掛かることとした。モゾモゾと布団の中で動きまわる私が落ち着くのを待っているのだろう、唯の手元が小時その活動を休ませる。
「澪ちゃんがそうしちゃうと手元が見えないや」
「じゃあ私がやってあげるよ。これくらいならお安い御用だ」
「だーめ。これは私の仕事なんだから、澪ちゃんは私にあーんってされて食べるだけでいいの」
 聞く耳も持ってくれないらしい。やがて私に視界を遮られることにも慣れてきたのだろう、器用に首を捻っては手元を動かし、筋の一本一本を丁寧に剥いていき、そうしてやがて。
「出来た。はい、澪ちゃん。あーん」
「あ、あーん」
 余裕を持たせた方が良かろうと、少し大きめに開いた私の口元は相当に間抜けな面になってしまっていることだろう。鏡がないものだから認めようもないものだけれども、行為自体が含む属性と併せては、全く以てこんなこと。何時まで経っても慣れようはずもなく、我ながらどうしたものだろうか。
 そのままでして私が待機をしていると、そう、唯はこうやってピッキングをする。薬指と中指とをピックガード上に添えては挙動の安定を図るその台座は、今は私の頬となる。彼女のふにふにとした二本指が私の肌をくすぐりながらも、実を摘んだ親指人差し指とが私の口内に差し出されるその感触が落ち着くのを待ってから、やがて私は閉口を開始する。
 しかしこうして開けて閉じてを行っているその一部始終を眺められているのかと思うと羞恥の念が、仮に瞬間的には払拭したとてその後から後からと湧いてくるのだ。――まるで穏やかな拷問だな。それも、執行する彼女には嫌悪感など微塵もないものだから加えて質が悪い。私が心中で悪態にならない悪態を吐いている内にもやがて完全に閉門をする次第となるのだがしかし。
 私は目で訴えるが唯は依然とニコニコ顔を浮かべたままに揺らぐことがない。
 つまり判った上でやっていることなのだろう。どうしようもないといった諦観を鼻息へと混ぜながら私はその指ごとを果実と共に優しく食む。歯を立てないように、唇と唇とで緩やかに挟みこんでは首を仰け反らすような形でようやっと引き抜く。
 仕事の最中に、しかしどうやって気を付けてしまっても当たるものは当たってしまう。外側に比べると湿度の高い舌が触れてしまってはベタベタとなっているそれらを唯は暫時見遣った挙句、此れ見よがしに大きく口を開いては勢い良く含み、ああもう頬が膨らんだり凹んだりして中がどうなっているのかと考えるのも憚られる程にそうなんだ。思わず顔がカアッと熱くなってしまう。
 やがて存分に堪能したのか微かな水音を生んでは引き抜き、私たちで汚れた指先でして自分の分を摘まんではそれをさも美味しそうに頬張るのだ。
「んふふー」
 鼻に掛かるような声を聞いて、決して寒くはないはずであるというのに背筋から寒気にも似たようなむず痒さが上へと向かって走る。首元を通過したそれがやがて脳天に直撃しては耳元を戦慄かせて。全く何というエネルギーだろうか。
「はい、澪ちゃんも。あーん」
「あ、あーん……」
 半ばにある三弦や四弦ですら正確に狙い撃つ彼女がこの程度の仕事に苦しむはずがないのだが、しかし内に差し込むその際に実を摘んでいる指の側面はガツガツと私の唇に衝突をしていき、当然のことだがやはりそこは湿り気を帯びている。ピンと冷気の張った室内において乾き気味だった私の両唇は自らの唾液以外によってそうした際に生じる独特の違和、水気を感じながらも、だからと言ってどうしようもない。先程と同じようにしてそれを含み、私のものを新たにまぶしては彼女にやって返す。唯はその手で以てやはりとても美味しそうに次の一切れを頬張る。
 そうして、唯による餌付けが終わる頃にはこの一連の授受に対し、私の心は完全に日和り上がってしまっていた。石英管から絶えず送られてくる身に染みるような暖気と、私を背中からがっぷりと包み込む柔らかくて暖かな塊とに併せてサンドイッチをされては次第に現実感というものを喪失していっていることが自分でも判る。日常においては様々なことに気を払っては対面を保つため、全体のバランスを取らなくてはならないものだが、今この場において私が気を付けることと言ったらそれこそ呼吸のやり方くらいなものではないだろうか。他に関しては何ら放棄してしまったとて唯が、あるいは憂ちゃんがその何もかもを処理してくれるのだ。
 そうして、これだ。そんな思考を胸に落とし込んだ途端にまた張り詰めていた糸が一本、緩んでいくのが判る。今この場における私はどんどんと幼児側とでもいうのだろうか、そちらに退行してしまっているかのようだ。他人に見せるのであれば殊更、自分事だけで済ますにしてもどこか羞恥を伴うそれはしかし、こと平沢家においては無用の長物といっても過言ではない属性の情感であるらしい。恰好を保つことに関する馬鹿馬鹿しさというやつをいい加減に察した私は、そうであるからして今このような流れに逆らうこともなく彼女らに身を任せているのかもしれない。いやまあ、どうにも後付け的な感は否めないものだが、それはこの際仕方がないのではなかろうか。
 何か陥りのようなものを感じた私は思惟を逸らそうと、間欠的にミカンを私の口元に運んでくる唯に応じながら思い立ったらば、しかしこんなことばかりしていては太ってしまいそうだなと、唯の股の間に自らの尻の位置を改めているとその矢先に憂ちゃんがまた盆を持ってやってくる。
「お汁粉が出来ました。お餅は町内会で作った手打ちのやつだし、餡こも私が手作りでやったのできっと美味しいですよ。どうぞ」
 料理の腕前に関しては私が知る人の中では随一となる彼女がそう言うだけあって、目の前に差し出された椀の中、黒海の上に浮かぶ白餅の旨そうなことときたら。先程までは体重を気にしていたというのに既にどうだろうか。自分事ながら全く節操のない。
 これはなるほどしかし、唯のように体質的に加重を逃れられるような人間でもないと性格だけに留まらず身体の方もアザラシになってしまうこと請け合いではなかろうか。今日という日だけをこの場にしている私が既に斯様な危機を感じている通り、これについては間違いのない要素であろうと思う。特に私とムギの辺りにしては食欲と体型維持との葛藤の狭間に揺れては天国と地獄を同時に味わってしまうこと逃れようがなく、まるで死活問題のような態である。
 さてそれはともかくとして、いずれにせよ今日だけのことなんだ、きっと。こんな美味しそうなものが目の前にあるのだ、気を取り直しては取り掛かろうとした私なのだがしかしこれは何を間違えたのだろうか。憂ちゃんの様子を見ていると食物の用意も一段落したのであろう、私と唯が足を突っ込んでいる側の横手に腰を落とすその様子を見ているとそれは間違いないのであろうが、しかし問題は椀の数なのだ。
 卓上にはどう見てもそれらが、二つしかない。
 憂ちゃんに限って不足の事態を起こす訳もなく、そうなるとこれは意図的なものなのだろう。なるほど、よくよく眺めてみると彼女自身の目の前に置かれているものの内には一口サイズに切り分けられた餅が三つしかなく、しかし私たちの目の前に置かれているものの内にはその倍以上はある。何より器の大きさそのものが違っており、明らかにこちらの方が大きいそれが示す意味などすなわち他にあったものではないのだ。
 憂ちゃんは運搬に使った盆の上から蓮華を、やはり二つだけ取り出しその片方を自らの器に、もう片方を姉の手に託す。その間の私といったら、顔を赤くして俯かせながらに彼女たちのやり取りを待つ他にない。
「それじゃあ、冷めない内にどうぞ」
「美味しそうだねえ。いただきまーす」
「い、頂きます……」
 それら中身を自由に扱う権利を、蓮華という道具を所持することで有する彼女らは悠々と熱い餅に取り掛かる訳だが、しかし自発的にそうすることの出来ない私のこのやりづらさと来たら。憂ちゃんがニコニコと一口目に取り掛かるその頃には過剰なまでにふうふう、と餅に息を吹き掛ける唯がおそらくこの後に行うことはおそらく、
「はい、澪ちゃん。あーん」
 ああ、やっぱりそうだ。私の身体を回り込むようにしながら食器を扱っているものだから差し出すその先端はぷるぷると小刻みに震え、見ているだけでも危なっかしい。仮にこれをこの場で落としてしまっては、せっかく今日のためにとお気に入りを纏ってきた私の努力が一瞬で水の泡と化してしまうことだろう。それは、とてもよろしくない。
「あ、あーん……」
 仕方のないこととはいえ、横手にいる憂ちゃんに真っ直ぐ見られているのかと思うととても目なんて開けていられたものじゃない。過剰なまでの閉眼をしながら唯が口内へ餅を運んでくれるのを認め、先程と同じだ。ゆっくりと蓮華を唇で食んでは引き抜いてもらい、口の中には憂ちゃん特製の汁粉餅だけが残る。
 含んだその途端、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうな胸の内はともかくとして、舌の上で発熱しては自己主張を行う食感のしかし美味なこと。粉っぽさなど欠片もなく、加えて甘味についても全く以て嫌味がない。小豆本来の旨みが無理なく餅と絡んでは私の舌の上で見事な調和を為す。流石に憂ちゃんの仕事と言えるだろう。直ぐ様に賛辞の一つでも送ろうと思ったのだがしかし、なかなか飲み込めず暫くの間を咀嚼に費やすしかない私に、
「美味しい?」
 良いタイミングで放られたアシストに私は口をもごもごとさせながら大振りな首肯でして返す。口が開けないものだから、この微妙な心理が伝わったものかと不安に思っていたものだがしかし彼女らの様子を見ていると問題はなかったらしい。
「良かったです。餡なんて作るのが久々だったものですから、上手に出来てたかなあって」
「澪ちゃんはすごく美味しいって。良かったね、憂」
「うん。お姉ちゃんも食べて食べて」
 促されてから唯は私が咥えた蓮華の上に餅と汁とを乗せながら一口をやって。やはり美味しいのだろう、んー、と高い唸りを上げては暫しの間をそちらに取り掛かっているようだ。私の方もようやっと嚥下が敵い、後味に一つ溜息を落としながら憂ちゃんに改める。
「いやでもほんと、美味しいよ憂ちゃん。たまにほら、お湯を入れて三分待つだけのインスタントなら自分でも食べたりするんだけど、段違いだ。美味しいし、何より身体に良さそうな味がする」
 「ありがとうございます」私が嘉すると、口の中に若干残っているのだろう、憂ちゃんはそう簡単に返してから発言権をキープする雰囲気を持たせつつもそそくさと餅を飲み込む。
「少ないですけどお代わりもありますから、遠慮しないで食べてくださいね」
 これに対しては素直に応じる私に、こちらもようやく落ち着いたのか、唯が次の一口を運んでくる。
「はい、澪ちゃん」
 危なっかしい手付きで位置をキープする蓮華に私は顔を寄せる。唯に見えるように口を開いてはその内に通してもらい、食んで引き抜いて。こういうことに手慣れているというのも我ながらどうかと思うのだけれども、ともあれ最近はそれなりにやり慣れた感のある一連の所作をこなす私に対して、しかし唯は相変わらず少し不器用であったらしい。
 あっ、と彼女が小さな声を上げるその瞬間前に、狙いを微妙に外した餅が私の唇の外側に接触した。無論、その周りには真っ黒い小豆がコーティングされている訳で、必然と私の口周りにもそれが付着してしまうこととなるのだがまあ、こんなことなんて普段から何度もやっていればいずれは起こり得る、当たり前のこととなるだろう。何よりコントロールをしているのが常日頃からどこか抜けているような唯な訳で、失敗がない方がむしろ不思議といったくらいのものだ。
 そういう訳で、汚れなどあとで拭けばいいやと特段気に掛けることなく咀嚼を始める私だったのだが、対して唯はどうしようどうしようと椀を置いては慌てふためいている様子で。手拭きやティッシュなども手近なところに置いていないためにそうなのだろう。私がこうやって彼女の上に乗ってしまっていては席を立って取りに行くことも敵わないであろうし。
 まあ待ってくれよ、これが一段落したら自分で何とかするからさ、そんなつもりで悠々と美味を味わっていた私だったのだがしかしこれが油断というやつであったらしい。両頬を手に取られたかと思ったらばあっという間に私は顔を横に向かされて、え、おい、よせ、ちょっと、まさか。
「んっ!」
 口の中に餅を含んでいる私は舌を効かせることが出来ず、呻くような声を漏らすことしか敵わない。静止行動の取れない私の状況をいいことに、唯は件のポイントへと舌を滑らせていく。
「わ、わぁ……」
 横から憂ちゃんの漏らす感嘆の音が聞こえるのだが、いやしかし待ってほしい。これは決して私の本意から来るものではなく、あくまでこのアザラシが勝手にやり始めたことなのであって、詰まるところ私の自由意志などこれっぽっちも介在しないのだ。だから決してそんな、まるで私たちが何時如何なる時もこうやってやっているのだなあといった様子の目で私を見ないでほしいのだが、ああもう、唯!
 顔を顰めてやり過ごそうと思っていた私だったが、憂ちゃんから絶え間なく送られてくる好奇の視線に体力を削られてはいよいよそれも敵わぬものとなってくる。急ピッチで嚥下を終えた私はこの妙に温かい熱の塊を引っペがそうと試みるつもりであったのだが、
「ん、ぐっ……」
 斯くも況や。こういう点に関しては妙に頭と応用の利く唯は、中が空っぽになった私に代わりを突き込んでくる。状況が見えていないのだろうか、こいつは。
 ふんふんといった具合に鼻息と、ローフリケンシー、こたつの駆動音としか発音源のない室内には私と唯の湿り気とが絡み合うような水音が響きゆく。無理に首を捻られているものだから思い切った抵抗をすることも出来ない私は、震えながらにして彼女の強引を受け入れる他にない。
 横手からは憂ちゃんのうっとりとしたような息が漏れ、そうして見世物になってしまっているというこの状況を改めて認識させられてはしかし、平素であれば簡単にヘタってしまう私も今日ばかりは流石にないだろう、これは。ともすれば遣ってしまいそうだった気を力強く手繰り寄せては、私は利き腕をこたつから抜き取り、
「むっ、ぶっ!」
 私に引っ付いて離れない唯の左頬を軽く叩く。二度、三度とそうしたらば勢いこそ弱まるものの、しかし決して離れようという気はないのだろう。頑なに粘着を続ける唯のこめかみをいよいよ鷲掴みにしては強引に腕を伸ばし、そうすることで以てようやっと私は解放されることが叶う。
 こたつに入っているだけであるというのにしかし、二人でしてどうしてこうも息が切れてしまっているのか。唯の胸元が激しく上下するのを背中に感じながら私もきっとそうであるだろうことを認めながらしかし、憂ちゃんへの対応はどうしたものだろうか。フォローのパターンを何点か挙げてみるものだが、どれもこれも莫大な精神エネルギーを要する仕事ばかりなものだから、ああもう。やり始めたのは私じゃないのだからもういいや全部唯に任せてしまおう。そうだ、何も私がやることなんてない。
 ジトッとした目に問責の意を込めては唯を見遣っていると、流石に察してくれただろう。私の不機嫌に対して気まずげに、次いで焦燥し、そうしてから何かを閃いたようにして口を開くのだがまあ、この調子で捻り出されたアクションなどロクなことではない気がしては仕方がない。何分、しっかりとした熟考をした後のものですら破茶滅茶であるのが大概であるため、すなわちこいつにまともな思考を期待してはいけないことに関しては私にしても既に把握していたはずなのだが。
「う、憂の特製お汁粉、澪ちゃん和えー。な、なんちゃって……」
 やはり私から漏れ出たのは盛大な溜息と諦観でして、唸るように頭を抑える他になかったんだ。だってそりゃそうだ、こんなにもなってしまっては、それも仕方がないというものだろう?


 皆が椀の中身を空っぽにした頃には、洗い物とお茶の用意とをするということで憂ちゃんは再び台所に取り掛かりに行ってしまった。部屋に残されたのは相変わらず唯と、彼女に抱えられた私と、そしてこたつの彼が奏でるローフリケンシー。
 意図せぬ一幕があったとはいえ、しかし私はこのゆったりと流れていく感覚のする時間が嫌いではない。何せ私が忌避するものが一切存在しないこの空間において、恥ずかしいものだから絶対に口にはしないが、最愛と言っても過言ではない彼女が私にぴったりとくっついてくれているのだ。小さくて、柔らかくて、暖かくて、ふわりとした香りが後ろから漂ってくる。怠惰が過ぎるというこのシチュエーションが、勤勉が半ば観念的なものになってしまっている私にとっては気掛かりなところではあるが、それを補って余りある程の魅力が私の些末をいとも簡単に押し潰す。ここにいる時だけ、今だけはと、気付いたらそういう気になってしまうのだから不思議なものだ。
 先程だってほら、ああやって反発はしたものだが時と場合さえ鑑みてくれれば私は何ら嫌なことなんてないんだ。こうやって唯に後ろから抱っこされているのも好きだし、二人でお話をするのも好きだし、あーんだとかほら、さっきみたいなああいうのだって、憂ちゃんに見られていなければ私としては何ら問題がないんだ。それでも恥ずかしくはあるものだけれども、それすら楽しみの一つとして捉えてしまっていることを今の私は否定出来ないだろう。
 だからこうして、いざ二人きりになってしまった私はついつい甘えてしまう。背中を思い切り唯に預けて、後ろ髪を彼女の頬があるであろう部位に擦り付ける。ねえ、撫でて、撫でて、って。それは私は唯と二人でいる時だけの、私が他人には絶対に見せられないような仕草の一つであって、唯の方もそれを確と承知している。片手を私の頬に添え、もう片方で以て頭頂からを何度も何度も撫で下ろしてくれる。ああもう、ほんとにこれなんだ。私はこれが好きで堪らない。ずっと唯にこうされていたい。
 しかしだらだらとこんなことばかりをしていると、まるでこのこたつの中は私にとっての世界を詰め込んだようなものだなと、ふとそんな考えが頭を過ぎる。
 唯が人工的な温度調整の為された送風機能を嫌うものだから、部屋の内には大きめのハロゲンヒーターが一つ据えられているのみで、他にこの寒気を打ち破るべき活動を続けるものとしたらば私たちが今半身を突っ込んでいるこのテーブルのみとなる。正直に申し上げると、やはりこの程度の防寒設備だけでは冷えを完璧に打破出来るものではなく、現に室内温度は単純に厚着をしただけで耐えていられるようなポイントには達していないだろう。着込みに、ハロゲンに、こたつにと、それらを総動員して形成された限定的な空間に因ってはようやっと成るような状況なのだ。
 不便を感じないかと問われると確かにそれはその通りであるのかもしれない。しかし、為し難きを為した、非常にアンバランスなその上でして手に入るものというのは得てして非常に価値のあるものになり易く、今の私にこれを当てはめてみてもその法則にはやはり相違ない。限定と、唯というファクターとに包み込まれている私は今日という日をとても、そう、とても満足に過ごしている。ことこれに関しては間違いがない。
 私がそうして浸っている内にも、果たして彼女の仕事が早いのか、私の時間間隔というやつがこのふやけた空間の中においてやはり希薄になってしまっているのか、あるいはその両方なのかもしれない。ついさっき出たばかりだと思っていた憂ちゃんが茶器を盆に載せては、やはりそつのない手付きでしてまとめてアザラシとなってしまっている私たちの前に湯のみを差し出してくれる。くれるのだが、やはりそう、一つのみを。
 流石に堪りかねた私は何か一言物申した方がよかろうと、しかしそうした矢先に後ろから唯が、
「流石憂だなあ、良く判ってる。お姉ちゃんは嬉しいよぉ」
「えへへ、それ程でもないよ」
 そうして勝手に二人でほっこりし始めるものだから、棘を刺そうかとした私の気勢はしかしみるみると減衰してしまう。平沢姉妹はいつもこのような調子でして標準を気取るものだから、まるで私の方がズレているかのような心象を日々じわりじわりと植え付けられているかのようだ。全く以てどうしようもない。
 ともあれ先に唯から。一口を含んでは流石に熱いものだからこれを先程のようにやる訳にもいかないのだろう、器を私にそのまま手渡す。
「ちゃんと、ここで飲んでね?」
 そうやって莞爾として微笑む唯は手渡しの際に回すことなくそのままを私に託す。ああもういいさ、どうにでもしてくれ。言われるがままにちびちびとやってから、やはり私もそのままでして唯に返して。
「ふふ、美味しいね」
 躊躇うことなく口にしてはそうやって、本当に心の底から嬉しそうにする唯と私を果たして憂ちゃんはどうやって見ていたのだろうか。姉とそっくりな笑みをその顔に浮かべてはぽつぽつと口を開く。
「やっぱりお姉ちゃんと澪さんを見ていると、何だかいいなあって思えちゃいます。私ってほら、そうやって仲良くするような人って今までいたことがないんですよ。羨ましい」
 しっかりと私の目を見据えながら話すものだからもう、どうしたものだろうか。頼みの唯も照れているのだろうか、何ら発言を起こす気配がない。
「やっぱり恥ずかしいなあとか思っちゃうんですけれども、私も好きな人とキスとかそういうことをするのって憧れなんですよね。一体どういう感じになっちゃうんだろう、手と手を繋ぐとか、そういうのとはきっと全然違うんだろうなあって知らないなりに色々と考えるんですけども、お姉ちゃんと澪さんを見ているとでも、何かちょっと思ったのと違うんですよね」
「違うと言うと?」
 珍しく饒舌な憂ちゃんに、話題の運び方もただの真っ直ぐではないものだからついつい聞き返してしまう。私の問に対して彼女は一泊を置いた後に、
「何て言うんでしょうか、普段は絶対に触らないようなそういうところがくっつくっていうのは、その行為自体が持っている外見の、それ以上の含みがあるっていうか、いえ、確かにあるんだと思います。そうなんでしょうけれども、それでも思った以上に普通なんですよね。お姉ちゃんも澪さんも、ただシンプルに顔を近づけてくっつけて、よく漫画とかドラマであるような派手な演出もなければ煽りのテロップが入る訳でもなくて、ああ、これが現実っていうやつなんだなあって」
 そこで湯のみを傾けては一息をつける憂ちゃんのペースに則って私も含ませてもらう。どうやらここはまだまだ彼女の場であるらしい。
「でも、だからといってがっかりしたとか失望したとかそういうことはなくて、見聞だけじゃ判らないような沢山の良いことがお二人からは伝わってきました。言葉にするのはちょっと難しいんですけれども、あれなんですよ。すごく幸せそうなんです、お二人とも。結局はそこに落ち着くのかなって」
 どうやら語る都度に赤く染めながら頬笑む憂ちゃんの、その表情と内容とに乗せられては私もすっかりと感化されてしまったようだ。当事者となっては、それでもやはり受動的なものだから尚更であろう、考えるまでもなくただあることをあるがままといったようにしていれば勝手に始まり終わっているものだけれども、そうしている自分を傍から見るとどのように映るのか。図らずとも彼女に提示されたような形となる。
 この材料を好ましいのか、そうではないのか、ふとその二極的なところに関して天秤に掛けてみる私なのだがしかし何であろうか、何もかもが混じり入っては判断つきかねる状態となってしまっている。感触としては良いことに違いがないのだが、私がそれを受け入れるにはこそばゆさと、馥郁たるその度合いが強きに過ぎるらしい。全く、唯と深く関わるようになってからはずっとこうだなと心中で軽くぼやいてみるのだが、私にはいつもこれが限界であるらしい。今回もまた、自らの器の小ささを穏やかながら実感する次第となった訳だ。
「私の頭の中じゃいい感じのBGMとかが流れてるけどなあ、澪ちゃんとちゅーする時。しゃららーんって感じで」
「お前は少し黙っていた方がいい」
「そんなぁ」
 やるだけやっておいて、やはり唯も照れくさいのであろう。姉妹でこういう会話をする機会というのはあるのだろうか。どうにも二人共に手に余してはクサさを持て余しているような独特の雰囲気を醸しており、その微熱さ加減が私にまで伝播してきているような気さえする。唯に触れられている背中が、どうしてかさっきよりもくすぐったい。
「ふふ。でもそういうことは、せめて私の前だけにしてくださいね。他の人に見せちゃうなんて勿体ないです」
「はーい」
 しかし上手なものだ。そうやって憂ちゃん流の柔らかな釘を刺してもらったところでこの妙な場は丸く収まることとなり、各人で改めて煎茶とミカンとに取り掛かる。
 甘くて暖かくていい匂いがして、ああ、人生を長く生きていればこういうこともあるのだなあ、景福だなあと穏やかなこの時間を満喫する私は、やはりこの日だけは特別なのだろう。
 それは勿論、こうして諸々を施してくれる彼女たちがいてこそのものであってして、いるかどうかも判らないがそれら全てを含めた斯様な計らいを私に授けてくださった何か神様のようなものに対し、私がささやかな謝辞を念じていると、
「澪ちゃん、」
 普通にすれば、今ではないであろうに。しかし私からするとまさに今なのだ。
 言葉などでは及びもつかないようなそういうところで、しかし唯はその一切の分別を出来るのかもしれない。やること為すことが滅茶苦茶で、それでも人一倍頑張り屋な私の大切な友に、そして憂ちゃんに。
「お誕生日、おめでとう」
 私は生来の、私という人格、容姿を構成する普くものを以てして、彼女たちに感謝を贈りたい。
「ありがとう」
 そして願わくば、一年の後もここでこうして三人共に揃っていられますよう。寒空の果てに、私はそっと想いを馳せたのだった。




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