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2010.06.27 (Sun)

friend(s) Part.2 (旧:けいおん! Part.4)

お待たせしました、けいおん!から唯と澪で2本目のお話となります。
前作(←同じ窓で開きます)の流れを完全に継いだ続き物になりますので、単品で見てもおそらく意味の分からないものになってしまっている気がします。お時間に余裕がありましたら前作にも目を通して頂けるとより一層思うところが増えるかと思います。

続きから本編になります。お楽しみ頂ければと思います。

【More・・・】






 夕暮れ時の西日が目に痛い程の光量でして音楽室へと差し込まれ、各々が構えた楽器とその身とを朱に染めながら取り掛かっては、もうどれ程になるのだろうか。
 『Shining Shiner Shinyest Girls be ambitious & shine…』
 それもやがて唯が最後の詩を口ずさむと、いよいよを以て私たちの演奏は締めを迎える。
 簡単なフレーズではあるが、そうであるからこそここからが油断ならない。出音、消音のメリハリを利かせてはリズムよく音を重ね、最後だけは尻伸ばしに。
 Gをキープしながら各人を見回し、唯が軽く顎を上げたのにタイミングを合わせて私は左手を指板に走らせる。まずはスライドダウン、次いでスライドアップ、そしてミュート。上げた頭が頷きの形を取るのとおおよそ同時に、律、ムギ、梓もそれぞれ早過ぎず遅過ぎずのベターなタイミングで音を途切り、放課後の音楽室は寸時の静寂に包まれる。
「お、おお……」
 律は、どうしたのだろうか。スティックを膝の上に預けては両手を翻し興奮の表情で手をわなわなとさせている。
「な、何か今の合わせ、すごいしっくり来たな。自己ベスト更新かもしれない」
 てっきりトイレか何かを我慢していたのかと思っていた私だったが、しかしこれは失礼をした。普段があんなものだからハナから除外してしまっていたが、珍しく一端のミュージシャンとしての感慨に耽っていたらしい。我が幼馴染ながら、普段からもう少しその調子と熱意をキープしてくれればと思わずにはいられないものだが。
「律先輩にしては珍しく安定していましたよね。それでもサビに入った直後とか猛烈に突っ込んでましたけど」
「にべもない!」
 最初こそ遠慮がちに私たちへと接していたものの、これが本来のらしさなのだろう。梓が少々の毒舌で律を煽る。やっていいところと悪いところの境目をしっかりと見極める配慮を持ち合わせつつも、日々じりじりとその幅、比率を調整して来ているのが油断ならないと感じるのは私だけだろうか。
「唯ちゃんと澪ちゃんが作って来てくれた曲も大分形になって来たわね」
 そんな一同を傍目に、いつの間にやら鍵盤から身を離しては既にお茶の準備を始めていたムギが、茶器がまとめて置かれているそちらの方角から呟く。
 思わぬところから上がった声へと例に漏れず一同ギョっとしていると、やがて気を取り直した梓が先輩だけにやらせられませんと向かっては、あらあらいいのよといつも通りの光景が繰り広げられ、さて、こうなってはエリザベスの出番もここまでだろう。定例通りだとこのあとはムギの淹れたお茶を戴きながらの軽い反省会となる。私が相棒を片付けようと壁際に向かうと、
「澪ちゃん、お疲れ様」
 ギターとベースのスタンドは邪魔にならないようにと壁際に一纏まりにしてある。ムギの元へと向かった梓のムスタングは既に一番右端に置かれており、特に取り決めた覚えはないのだが、何とはなしにそうなっている慣例に従って私は左側、次いで唯が真ん中へと各々の楽器を立て掛ける。
「ああ、お疲れ様。唯も今日は調子がよかったな」
 ついて出た言葉は世辞でも何でもなく、私たちが作ったこの曲の演奏に対する唯のモチベーション、あるいはこだわりたるや驚くべきものがあるのだ。
 普段はリズムがよれたり進行を忘れたりとうっかりする彼女ではあるのだが、やはりこう、私たちにとっては初めて二人で作った楽曲であるものだから、何か特別な思い入れがあるのだろうか。委細は分からぬものだけれども、事これに関しては完璧に近いパフォーマンスを提供してくれている。
 私の返しへと小時照れくさそうにしていた彼女だが、肩からストラップで提げていたギー太をスタンドへと置くと、やがて気を取り直したように口を開く。
「ね、今日もうちに来ない? りっちゃんたちから渡された方の曲の私たちのパートなんだけどね、もうちょっとだけ詰めたいんだ」
 そうやって何気なさを気取る唯のこれは、しかし口実である。
 彼女は確かに作曲の機を境に人格的にも多少なりの変化を遂げたものだが、だからといって元来ここまで真面目に物事を突き詰めるタイプの人間ではないのだ。
 少し大きめの声量で律らにも聞こえるように告げるその行為には何かしらの裏があるに違いなく、そして、その意図についてはここでいうところの裏というやつに通じる、まさに当事者らだけは暗に把握しているのである。
「ああ、いいよ。練習が終わったらいつもみたいにやろうか」
 それも何を隠そう、唯本人と私な訳だが。
 これは、完全なる予定調和だ。いわずとも互いには知れている。密なる関係ではあるが、だからこそだろうか。それを意図的であれ、そうでないであれ、刺激的に楽しんでいる近頃の私たちは少々浮かれているのかもしれない。
「唯先輩、澪先輩、お茶が入りましたよ」
 部屋の隅で今後についてを話し合っていた私たちへと梓から声が掛かる。あとからでも出来る内容であったし、何よりせっかく淹れてもらったお茶だ。冷める前に戴かなくては勿体ないだろう。手早くまとめた私たちは頷き合って中央のテーブルに向かう。
「いつもありがとうあずにゃん! 愛してるよ!」
「なっ、いいですってば、そういうのは! ン、もう、離れてください!」
 トレイをテーブルの上に置いては梓が手空きになる、まさにその時を狙っていつものように抱きつく唯。口では嫌がれどしかし実のところはどうだろうか。決して本気で振り解こうとしない彼女は、私と半ば似たようなものなのかもしれない。
 テーブルへと向かうがてら、ふと気まぐれから唯にがんじがらめにされた小さな後輩の頭へと手を置く。どこか意外だといった様子の二人へと、私はどうにも気が晴れやかなのだ。自分でもいい笑顔が出来ているのではないかと思う。
「ありがとう、梓」
 息を漏らす彼女らをうしろにしながら、私は何でもなかったかのようにソファーへと座っては律を茶化し、遅れて来たムギへも労いの言葉を掛ける。いつの間にかじゃれ合っていた二人も列席へと加わっては反省会も終了し、やがて本日の活動も解散と相成った。実に充実感に満ちた、平和な一日である。


 近頃の唯の立派なところとして、私を部屋に呼び込んだとしてもただ遊んでばかりという訳ではなく、しっかりとギターの練習に励むというその点がまず挙げられる。
 自意識過剰といわれてしまうとそれまでかもしれないが、唯のことだから私と二人きりとなるとぐったりべたべたと、てっきりそういう具合にだらけてしまうのではないかと当初は危惧していたものだけれども、しかし着いてからの一時間程は約束していたポイントについての反復練習をしっかりとこなすのだ。日々口うるさくしていた私としては、彼女のその謹直ぶりについて我が子の成長を見守る親のような感慨を抱かずにはいられない。
 ここでは私も、やる気の唯に合わせるような形で曲を軽く二、三度流しては納得のいかないフレーズについてはピンポイントに幾度かのおさらいをし、あるいはところによっては表現の機微について議論を戦わせるような場合もある。
 例えば、ビブラートの掛け方が早過ぎるだとか、揺らし幅が大き過ぎるだとか、あるいは音の出際と消し際についてのニュアンスだとか、話題は様々だ。いずれも細かな点ではあるが、こういうところの積み重ねが全体的な良質を生み出すためには必要不可欠なのである。腕前自体の上達のため、あるいはよい音というやつを聴き分ける耳を育てるため、面倒ではあるのだが着実に実践していかなくてはならない。
 ともあれ、辛楽引っくるめ納得のいくまで楽器を触ったあとの私たちは、ようやくのお楽しみに耽るのである。
 ここ最近の唯のお気に入りは部屋の暖房を消して、二人でベッドの前で一枚の毛布にくるまりながらコーヒーを啜ったりお喋りしたりするこの遣り様だ。
 初めは寒いから二人で一緒にベッドに入ろうといわれたものだが、真っ赤になった私がそれだけはと頑なに拒否したところで現状に落ち着くような形となった。だってでも、いきなりそんなベッドだとかいわれても。唯からすると変な意味での他意はないのだろうけれども、それでも、こればっかりは初心な私にとっては敷居の高過ぎる冒険というものなのだ。どうしようもない。
 対してこちらはそれ程あざとい感じもせず唯の側にいられるものだから、妥協案と雖もも、実は私もお気に入りのやり方であったりする。
 二人をやや手狭に、それでもすっぽりと包んでしまう毛布からはすっかりと染み付いた唯の香りが漂って来て。それだけで私はクラクラとしてしまう。とにかく暖かくて、いい匂いなんだ。
「んふふー」
 何をいうでもなく私の肩に頭を預けて甘えて来る彼女に、胸の奥から始まっては背中や腰へとむず痒さが伝播してゆくような感覚に見舞われる。思わず肩を竦めてしまうような多幸感。控え目に擦りつけられる頬が揺れては随する形で流れるサイドの髪束が私の首筋をくすぐり、それが堪らない私はまた、自然と震えてしまう身体の反応を唯に知られないようにと隠蔽に勤しむのだ。
「澪ちゃんあったかー」
 手は手を取り、肩を寄せ合い、首元へと顔を潜り込ませて来る唯に、私はまるで匂い付けを施されているような印象を受けてしまう。頭の天辺からを唯のものに包まれては身体の外側だけに留まらず、じきに内までをも侵されていくのだ。普通にしていては開き難いところだというのに、唯にそれをされるのかと思うと堪らない。どこか昏い興奮がふつふつと煮え立って来るようで、そうして私はまた反射で背筋を震わせてしまう。何と抗い難いことだろうか。
「ただいまー」
 そうやって暫くの間を二人だけの仕様に耽っていた私たちだったが、やがて中に張られた空気が外側に引っ張られるような音を立てながら階下の扉が開く。買い物に出ていた憂ちゃんが帰って来たのだろう。
 ――私たちには暗黙のルールが存在する。
 帰宅直後の憂ちゃんはいつもの通りにいくと、じきに私たちへとお茶を配りに来ることとだろうと思う。彼女へと事情を詳らかにすることの出来ないことについては私も唯も同意の上で、そうなると至当、こんなことはしていられない。内側に膨らんでいた何か幸せのようなものが急速に萎んでいくような念を感じながらも、私たちは何事もなかったかのように、いつも通りの唯の部屋を繕い始める作業へと移る。
 毛布はあちら、カップはこちらと諸々を片付けつつも、しかしついさっきまでは直ぐそこが唯だったというのに、今は無機質な空気だけが私を包んでいるのかと思うと、何ともいい難い寂寥感を覚えてしまう。何せ、心地のよいものが幅を利かせていた場所があっという間にポッカリとした穴となってしまったのだ。心の弱い、私のようなやつがバランスを崩してしまうのもまた当然のことで。
 人肌、特段、唯のそれが恋しいだなんていったら彼女は笑ってしまうだろうか。そんなことを考えながらハロゲンのスイッチを入れるその背中を見ていると、どうしてだろうか、軽い気持ちで進めていた恣意がいつしか冗談では済まなくなってしまって。そこまで強く思っているつもりではないのに、一方ではいけないのだと理性が止めに入っているというのに、まるで私は吸い寄せられるように彼女の腋の下から二本の腕を通す。それは、図らずともうしろから唯の自由を奪うような形となる。
「み、澪ちゃん、ダメだよ。憂が来ちゃう」
 自身ですらこの感情を正しくコントロール出来ていないというのだ。唯からするとまるで予想だにしていなかったのだろう。珍しく本気で焦りを孕んだような声色で控え目に囁く彼女だが、しかしどうしてだろうか。止まらない。
 私は唯を羽交い締めのようにする一方、室内の四方へと視線を飛ばす。
 壁際に立て掛けられた楽器。
 テーブルの上に置かれた空のマグカップ。
 開かれたままの部活用のメモノート。
 その他に関しても何ら不審な点は見当たらず、憂ちゃんが仮にここに来たとて、あとは私たちがその瞬間を何でもない顔でして、テーブルの直ぐ側で迎えていればいいのだ。彼女はまだ階下でお茶の準備をしている最中だろう。余裕がある。
「憂ちゃんならまだ来ないよ。もうちょっとだけ、このまま」
 そうして私は一層の力で以て、その華奢な身体を引き寄せる。私の方が上背があるものだから、こうすると私の目の前には彼女のうしろ髪が迫るような形となる。直ぐそことなった唯の首筋へと顔を埋めては一杯に空気を吸い込んで、渇望していた何かそれらを胸の内へと染み渡らせる。
 それはまるで中毒のような態と感じる程のがっつき様なのだけれども、しかしせめて唯と二人でそうしている間だけでも、一寸の間も空かずにこれがなくてはいけない。平素を我慢で送っている分、この一時だけでもしっかりと堪能しなくては、私はダメになってしまいそうなのだ。
 そうやって暫く私のなすがままとなっていた唯だったが、いよいよ階下で扉の開く音が上がる。間違いなくこれは憂ちゃんが私たちのために用意したお茶を持って上に運んで来るためのものだろう。
 振り向き、先程よりも強く私をたしなめる唯をようやっと解放した私は、階段を叩く足音が廊下から響いて来ることを認めながら、テーブルの近くへと腰を落ち着かせる。少し遅れつつも唯もそれに倣い、私たちが普段通りを取り戻すまさにそのタイミングでノックがされ、やがて扉が開かれた。
「失礼しまーす。お邪魔しちゃってすいません、紅茶を淹れて来ました」
「こんにちは、憂ちゃん。ごめんね、何か毎日のようにお邪魔しちゃって」
「いえいえ、好きでやってますから。澪さんが来てくれると私も嬉しいですし、全然構いませんよ」
 普段と変わらぬ様子の私に違和感を覚えることもないのだろう、憂ちゃんもまたいつもの調子を返してくれる。そんな中で唯だけがどこかぎこちのない様子なのだが、幸いにもそれに気付かれることはなく、「それじゃあ、ゆっくりしていってください」綺麗な会釈を残して彼女は部屋を去っていった。
 そのご、暫くの間を何とはなしに湯気を立てるカップを眺めては送っていた私だったが、ふとテーブルを挟んで反対側だったことに気付き、そそくさと唯の側へと寄る。そんな私に彼女は溜息を零す。
「もお澪ちゃん、どうしたの?」
 テーブル下で彼女のものを撫でていた私の手を握り返してくれながら、いかにも仕方がないといった具合に声を漏らす。それでもどこかぼんやりとした感じの私が、んー、とか生返事を返すばかりの様子にやがて諦めてくれたのだろうか。もう一度だけ溜息を吐いてから私の肩口へと頭を預けてくれる。
「憂にバレちゃったら不味いんだから。嬉しいけど、次からは我慢してね?」
「ん……」
 耳元で優しく諭してくれる彼女に夢見心地を覚えながらも頷いて。
「じゃあ、もうこの話はおしまい」
 そうして切り替えるようにカップを手に取っては、憂ちゃんお手製のスコーンを一摘み。咎めこそすれど唯もそうだったのだろう。さっきまでの調子を取り戻した様子で、私たちはまた、恥ずかしいくらいにくっ付き始める。
 何というか、よくも悪くも、私も唯も覚えたてなのだ。こうして過ごす小さな時間の粒の一つ一つが私たち二人にとってはとても新鮮で刺激的で、今まで憧れはせど辿ることの出来なかった次第についてその具合をしっかりと確かめていきたい、そんな念に駆られるのもこれはまた仕方のないことなのではないだろうか。
 私が紅茶を啜っている内にも唯はまたヒーターを切って毛布をベッドから取って来る。そうしてまずは自分でそれを被ってから続けて私の頭からゆっくりと覆うようにして――ああ、またこれだ。決して狭くはない私の生活範囲の中で、特別として限られた空間である唯の部屋。それを更に彼女が平素から使用している寝具でこうしては、より一層に狭い間へと私たちのプライベートスペースを仕切るのだ。
 この、外側と切り離された世界の中には私と唯以外の何者もなく、そもそも何人たりとて物理的に入り込む余地も知る余地もない。そんな中で私たちは他人にはささめくべきことを内々とやって、これはもう今までの私からすると途轍もない倒錯感、刺激にまみれた仕来りである。今まで私がこうものめり込んだことというと楽器を通しての音楽の活動以外にはこれが初めてかもしれない。こんなことがあるんだ、こんなことをしてもいいんだと、圧倒的なアイデアの奔流が私のちっぽけな見境を易々と弄ぶ。
 そうやって暫く、すっかりと落ち着いた私が享楽に因る溜息を漏らすと、やがて唯は私の膝を枕にして横になり始める。照明から降り注ぐ無機質な光はその大半が毛布に遮られては、微かな貫通光や反射光だけがぼんやりと彼女の小柄な顔を照らす。下から漂って来る放課後の唯の香りと、安堵に緩み切ったその顔を見ているだけで私は心の底がほっこりとして来るようで。
「澪ちゃんふわふわー」
 ああ、これだからやめられないんだ。
 可愛くて仕方がない私の親友の柔髪を梳くように、私は何度も何度も撫で摩ってやる。そうしては束の間の冥利を満喫するのである。


 本日の軽音楽部の活動は通しでの曲合わせを少々、大半を今後の打ち合わせに用いることとなっていた。
 私と唯で一曲、律とムギと梓で一曲、計二曲の新曲が出来たものだから、今後のライブでの使い方や更に曲目を増やすかどうか、やはりその辺りの相談が必要となって来る。
 これに際し、双方共に完成しては各曲のすり合わせも大分進んでこなれて来たということで、週末いい区切りだしと今日がその日程と相成った訳だ。
 議論を始める前に改めて問題点を抽出してみようかと、先程まで幾度か通した私たちのオリジナル曲だったが、これに関してはやはり一同、今までの合わせで既にそれなりの完成度になって来ているという判断に至り、故に、机上の話題はもっぱらこれら新曲の振る舞い方についてのものとなっている。
「私はやっぱりこの二曲だけで大丈夫だと思うけどなあ。皆はどうよ?」
 そうやって仕切りを執る律の、そつなく給仕をこなしているムギへと目線も寄越さずカップを受け取るその様に偉くなったものだなあと所感を抱きつつも、ともあれ当のムギが嫌がっている訳でもなし、わざわざ私が事を立てることもないだろう。
 とまれ自ら進んで仕事をこなす彼女へ私たちのお茶を任せながらも、こちらはこちらについての議論に熱を入れることとする。
「私は……もう少し新曲がほしいなあって思います」
「ほう、それはまたどうして?」
 控え目に口を開く梓へと、今までの話の流れでいけばそういう意見が出て来ないようなものであったものだから、物珍しそうな様子で律が返す。実際、私からしても意外であったものだ。いおうかいうまいか迷っている様子をいき来している梓の続く言葉へとじっと耳を傾けて待っていると、
「だってほら、律先輩とかいつもはあんななのに最近はちょっとやる気じゃないですか。今を逃したらこんなチャンスはもう二度とないような気がして」
「し、失敬な!」
 「私はやれば出来る女なのであってな!」「なら普段からそうしてくださいです!!」そうやって暫くギャーギャーと二人で盛り上がっていた彼女らだが、落ち着いた頃合を見計らって梓はこちらへも話題を振って来る。
「それをいうとでも、唯先輩もそうですよね。何か、澪先輩と作曲をするようになってから妙にやる気っていうか何ていうか。あ、いえ、いいことなんですけどね!」
「あずにゃんひどーい! 私だってやる時はやるんですから、えっへん!」
「いやもう、威張れることじゃないですから。どうか普段からそのやる気と気力を継続してください……」
 梓の指摘に思わずどきりとしてしまった私だったが、当の唯は動じる様子もなく即答でして返す。今となっては生意気なあずにゃんも可愛いなあ、とか抱きしめにいってはいつものようにうざがられているような様子である。
「でも、」
 猫がじゃれるようなそんな光景を遠巻きに見ながらひとまずは安心かとお茶を啜っていた私だったが、私と同じくそうしていた律が何か含めるように、どこか改まった様子で口を開く。
「最近ほんと、澪と唯って仲良いよな。唯の家にもほとんど毎日通ってるんだろ?」
 この一言は、彼女にとっては何気のない振りだったのかもしれないが、今の私にとってはしかし切れ味が鋭い。気付かれたか、あるいは勘繰られているのだろうか。思い当たるケースの限りについて頭中で列挙を重ねては、それら一つ一つに対しての処置をセットにしてはパターンを並べていく。
 その仕事の最中、私はせめて顔に出さないようにと冷静という鎖を振り解いては暴れ出してしまいそうな動揺を鎮めることに最大限の注力をし、片手間に頭の中はフル回転である。それはもう大変な労力で、果たして私は上手に出来ているのかどうか、自己分析に回せるほどの余裕は残っていないものだからこればっかりは確かめようがない。傍目には分からないだろうが、うっすらと背筋に汗を浮かべながらも私は何でもない振りを装って返す。
「梓のいう通りだよ。こんなにやる気の唯を逃したら次はいつ来ることやら。今の内に張り切っておかないとな」
 努めて素っ気なさを前に出す私はしかし、少し声色が冷た過ぎやしないだろうか。焦りを見られるよりは幾分もマシだけれどもそれにしたってああもう、嘘が下手なものだ。ここはもう、開き直る他にない。下手にボロを出すよりは斯様なノリを一貫するのが今の私の精一杯なのだろう。下手に手を広げ過ぎると、それこそ空いた隙から墓穴を掘りかねない。
 そうやってカップを口に付けながら場を誤魔化す私に、目線を逸らさずこちらへやり続ける律は何を思っているのだろうか。幼馴染ということで付き合いが長いだけに、言葉端を取っては裏を読まれやしないかと気が気ではない。
 キリキリと張り上げられていく糸がいつ切れるものかとひやひやしていた私だったが、どうやら決定的にダメになる前に逃げることが叶ったようだ。一つ大きく息を吐く律は、そっか、と素っ気のない返事を返しつつも、これについての話題はこれまでなのだろう。
「おらー、唯! 独り占めしてんじゃないぞ、私にも梓を寄越せー!」
「っぎゃー! 律先輩まで何なんですか、もう、いい加減にしてください!」
 そうして二人の暴君に翻弄される哀れな後輩に幾許かの同情をやりつつも、しかし幸いだった。気付くとカップの中身は空になってしまう程に飲み込んでいたというのに、まるで私は長距離を走って来たばかりのランナーのようにカラカラだ。握り込む手にもじっとりとした汗が張り付き、状況の危うさを改めて実感する。
「お代わり、如何?」
 カップを置いては左手を開いて掌をしげしげと眺めていると、音も立てずに直ぐそこまで寄っていたムギが声を掛けて来る。完全に油断をしていた。
 いつから見ていたのか。思わぬ不意打ちにびくりと身を震わせてはぎこちなくうしろを振り向く私に当のムギと来たら、また件の聖女のような面構えで以て私を捉えて。全く、今日は何なんだろうか。私の思い過ごしであればいいのだけれども、果たしてそうそう甘い話で片付くものなのだろうか。
「ありがとう……戴くよ」
 平常心という目に見えぬバリアも次第に形をなさなくなって来ているのが自覚出来、余裕のない自身ですらこう思うのだから、それはもう傍目には滑稽なものなのではないだろうか。
 何をいわれるのか、何と返せば最善なのか。その笑顔の裏に何を思っているのかを全く以て予想出来ない私は、彼女がカップへと次の一杯を注ぐその様をしかと目に焼き付けることしか敵わない。何ということはないそれら一挙手一投足が今の私にとっては大事となってしまって、対岸は騒がしいというのにしかし、まるでこちらは水を打ったような静けさだ。息が詰まる。
「はい」
 そうして私が緊張しきりでいる内にもやがて注ぎ終えたムギは心底楽しそうな声色でカップをソーサーへと置く。そうしてから今一度ティーセットが置かれた方のテーブルへと足を運んでは、何かを手にしてこちらへと再び戻って来て。
「はい、澪ちゃんにはオマケ。皆には内緒ね?」
 そう告げては私用の、お菓子を載せていたお皿の上へと小さなクッキーのピースを二つ添えるのだ。ああ、またあれだ。悪戯が好きで堪らないといった様子の顔で彼女は私を見つめて。
「そのクッキーね、すごく甘いの。今の澪ちゃんにはきっとぴったり」
 何が、ぴったりなのだろうか。それを訊ねたいと思う気持ちに反して、ムギの口から本義を聞くのが何故だかとても恐ろしいことのような気がし――結局は気圧された形となってしまった私には問い質すことが敵わない。
「あ、ああ。ありがとう」
 腑抜けたものだなと自らを思いつつもしかしどうしようもない。どうやらこの問題については今の私よりも彼女の方が一回りも二回りも上手のようなのだ。下手に動いてはいいように乗せられて、きっと私はあっという間に遊ばれてしまうに違いない。
 だとしたら、いやもうそれですら既にジリ貧に近いものがあるのだが、私は黙して受け入れることがこの場合は最善なのであろう。いい仕方が思い付かないのだから、そうする他にないというものだ。
 そうして私が蛇に睨まれた蛙の気持ちを全身で受け止めている内にも、全員のカップへと視線を巡らせ問題がないことを確認したムギは、自身の分を持ちながら私の直ぐ横へと腰を掛けて来る。向こうは向こうで私の気など知りもせずに盛り上がって、こちらはこちらで二人だけで。全く、この島分けについてはどうしてくれたものだろうか。
「何かね、」
 思考の錯節へとはまっている私へと、ムギは正面の三人をじっと見つめたままに口を開く。
 寸時、彼女の方へと目を遣っていた私だったが、どうにもそれは違うような感じがしたものだから倣うように正面へと戻す。そんな私を待っていたのだろうか。まさにそのタイミングでムギは再び続ける。
「今更だけどね、私、この部に入って本当によかった。楽しいこととか、素敵なことが一杯。他所じゃ、こんなには出来なかったと思うわ」
 何をして、どうしてこのタイミングでその言葉が出て来るのだろうか。今一つ意の汲めない私は返答に窮していたものだが、
「ね、澪ちゃんもそう思わない?」
 そこで初めて彼女は私の目を見る。いや、目を射る、といった方が正しいのかもしれない。
 意を汲めないなどといっていた私だったが、ここに来て至る。ムギはやはりそういう意味でしてこの話を振ったのであって、これはもう、私としては逃れようのない問題を突き付けられているまさにその瞬間なのだと悟る。
「……そう思うよ」
 もはや隠せもしない。動揺を露にしながらも私は彼女の言に応じるしかない。
 目を逸らすことも敵わない私は満面の笑顔を浮かべるムギに正面からしっかりと見据えられ、対岸の火種がこちらへ飛び火する段によってようやっと逃れることが出来たのであった。
 どうやら私は、私が思っている以上に、本当に不器用であるらしい。


 四六時中、不安という名の小骨があちらこちらに引っ掛かってはどうにも落ち着くことの敵わない私の胸の内とは裏腹に、それでも日常というやつは揺らぐことなく穏やかに流れていく。
 ムギは、あの日以来何ら変わった様子が見られない。普通に登校し、普通に授業を受け、普通に部活をこなし、普通にその日を別れては、また次の日へと暦が捲られてゆく。そんな平素の繰り返し。
 それも、たまに私と目が合ったり言葉を交わすような時には斯様な含みを持たせることはあるものだが、それも嫌味を感じる程ではなく、ましてや周囲にばら撒いたりだとかそれとなく漏らすようなことなども一切ない。その上で仰々しく私に気を払っているような様子など見せることもない彼女で、傍目には私たちの間には何の差異も感じられないことであろう。大変なバランス感覚である。ここを最大限危惧していた私からするとむしろどこか拍子抜けな程なのだが、ともあれ僥倖であって。
 だが、楽観ばかりを出来たものでもないだろう。あんなことを漏らした手前、ムギは私に何かを望んでいるに違いがなく、加えて現状がそんな彼女の気まぐれ一つでして悪化しないとも限らない。
 果たしてムギの意図とは一体何なのか、何が目的なのか、その裏を読めない内は枕を高くして眠れないというのにしかし、現実として未だその糸口さえ掴めやしないような状況で。思考は堂々巡りを続けるばかりなのだ。
「澪ちゃん?」
 自らの器量では解決し得ない問題なのだと至りつつも、どうにもそちらが気になっては思考のベクトルを向けてしまう。まるきり悪循環だ。そしてそんな私が、彼女にはどういう風に映っていることだろうか。今まで肩と肩を合わせるような格好でいた唯が、体勢を改めては斜め下から私の機嫌を伺うような様子でおそるおそると目を遣って来る。
「ああ、ごめんな。ちょっと考えごとをしててさ」
 実は、唯にはまだこの件についての話をしていない。よくない保留癖だとは思いつつも、必要かそうでないかの判断が自分でもつきかねているのだ。今のところ何か決定的に悪いことが起こっている訳でもなし、そういう意味で図るならば知らずとて何の問題もないものだと勝手に決めつけてしまっているものだが。
 しかし先日からこっち、いつものように部屋で二人きりになってはいざそういう段となると、どうにもムギの顔が頭を掠めてはこうやって心配をされるような態で。
 口にこそ出さないが、こんな私の態度に唯が多少の不満を感じていることは明らかだろう。殊勝な様子の彼女に対して、何でもないの一点張りで通すにもそろそろ無理を感じて来た頃合である。ただひたすらに私を案じるばかりのその視線もまた、心苦しい。
 もういっそ私一人ではこれ以上の進展は望めないであろうし、どうだろう。彼女にも相談を持ち掛けるべきなのかもしれないと、静かに耽る私を前屈みの格好で心配そうに見上げる唯の、しかしそれはわざとなのだろうか。緩く垂れ下がった襟元の奥にはなだらかな胸元の線が見え隠れして、こういうものに不慣れな私はどうにもどぎどきとしてしまう。どうすればいいのだろうか。
 眼下に広がるその誘いを出来ることならばじっと見つめてやりたいものだが、しかしそんな訳にもいかないだろう。いけないと思いつつも下に落ち掛ける視線を無理矢理に彼女の目元へと合わせては、それでもやがて下へと。ああもう、ままならないものだなと、落ち着かない視線のやり場に四苦八苦しながら、それでもようやっと意の決した私はやはり切り出すこととした。
「実は、そのな」
「うん」
 流れも何も非ずの振りだというのに、微細な空気を敏感に察知しては身を寄せる彼女は普段の様子からはとても想像出来ないような当意即妙ぶりで。これが私だけのために用意されたものなのだと思うとやはり、彼女にはしっかりと話しておくべき事項なのだろうと思う。
 そうして私は、先日の部活の最中にムギから掛けられた言葉の一つ一つについて記憶を頼りに順繰りと掘り起こし、それに対応したこちらの様子や、更にそれを受けたムギの反応などを可能な限り再現しては唯へと語り伝える。
 まさにそのタイミングを梓や律に掛かり切りだった彼女からすると、それはやはり想像もつかないような内容だったのだろう。
 真摯に耳を傾ける様子を見せつつも話が進むごとに瞳から漏れ出る惑いの色が強くなり、そんな彼女の姿を見る私もやはり心が痛む。これを見たくないがために包んでいたつもりだったのだが、しかしいつまでも現状維持を気取れたものでもない。遅かれ早かれこうなることは明らかだったのだ。
 表では事実のみを淡々と告げていく口とは裏腹に、頭の中では様々な憶測が飛び交い、錯綜する情報をもう少し上手くまとめられないものかと必死でやり取りを交わしており、それもやがてイタチごっこの段へと進まんかという辺りになっては、どうにも要領を得ないような形だとは自分でも思うのだが、ともあれ当時の状況としては大体こんなものであっただろう。私の知り得る限りを唯へと伝えられたことかと思う。
 乾きを訴える口内へとぬるくなったコーヒーを事務的に流しこんではようやっと人心地が付く。唯は唯で、私の制服の裾を摘まんでは小難しそうな顔をして唇を尖らせている。
 いっそのこと、このまま何もかもを投げ出して忘れてしまいたいくらいの念に駆られるものだが、しかしそうもいかないだろう。始めてしまったからには事を進めなくてはならず、何せ私は既に取り掛かってしまったのだ。
「ムギちゃんは、気付いちゃってるんだよね」
 呟く唯の、それは確認というよりもむしろ望みなのだろうと思う。出来るのであればそうでなければいいと、それに越したことはないのだと。彼女の言葉端からはそんな色が伺えて、私もそれは十分に承知しているのだ。
「ああ、きっと間違いないと思う」
 しかし現実と理想というやつは得てして乖離をしているものである。
 心苦しくも断ずる私へと、暫時呆けたような面持ちで揺蕩っていた唯だったが、やがて何を思ったのだろうか。
「そっかあ……」
 そう、溜息を一つ。
 私の裾を取っていた右手を解いてはやはりぬるくなっていることであろう、インスタントをくいと一息で呷ったのちに、バランスを取るかのようにもう一つ溜息を落とす。そんな様子の彼女を前にした私は、ついさっきまでは何かをいおうとしていたはずなのに気まずさから既にダメだ。何とも意気地のないことだろうか。
 何か気の利いた言葉の一つでも掛けてやろうかと思ったものだが、不器用な脳みそは一向に適当な言葉を作り出してはくれず、全く以て埒が明かない。頭で考えて駄目なのだ。いっそのこと、シンプルにいくしかないだろう。
 私はせめてもの贖罪としてその華奢な肩を抱き寄せては彼女の小さな頭を抱え込み、精一杯の優しさを込めて撫で摩ってやる。
 その、抜けのいいサラサラとした髪質に触れていると私もどこか心が落ち着くようで、唯のためと思いつつも何だかんだと自身の精神安定剤にしてしまっているのかもしれない。良心的な部分はもっと純粋に彼女だけのためにと願っているものだけれども、実際にはこんなもので。我ながら卑しく、現金なものだと思うが。
 それでも、可能な限りには彼女への想いを込めようと。
 そうして暫くの間を当て所もなく天井を見上げながら継続していた私だったが、服を摩擦させながら体勢を入れ換えようとするその様子にどうしたものかと目を遣ってみると、
「んー……」
 とろりとした表情でこちらを見上げる唯と直ぐそこで視線が出会してしまう。
 どこか微酔い機嫌の夢見心地といった態の彼女からは、これは私だからなのだろうか。むせ返るような凄艶が立ち上っては直上でまともに当てられてしまうのだ。
 どう贔屓目に見ても、色気というよりは可愛げ、女というよりは少女である彼女だというのに、しかし今の私は彼女のそういうどこか動物的なところにがっちりと咥えられてしまい――ダメだ。自制が噛み砕かれる。
 クッションも何もあったものではない。気付くと私は、半ば反射的に彼女の口元を塞いでいた。そして、そんな私に対して唯に驚いたような様子は一切非ず、つまるところ、やはり最初からそのつもりでいたということなのだろう。さっきまではあんなだったのに、自身の可愛さというやつをしっかりと自覚してはそうやって私をいいように扱って。全く、何ということだろうか。
 衝動的に先立つ悔しさからか、私は少し強く致す。唯の都合だとかそういうものは全くお構いなしに、私がやりたいように、加えては少しでも彼女が私に屈するように、なけなしのパワーバランスを取り戻そうと試みるのだ。
 顎下を掴んでは面を上向かせ、強めに挟んで口元を縦長にさせて。そうして少し間抜けな面持ちとなった彼女へと遠慮なく覆い被さる。息苦しそうな声を返して来るが、そもそもそれもどこまで本気なものか。今度こそ騙されないぞ。構わず攻め入り、直ぐ様に突き入れてやる。
 そうやって暫くを縦横無尽、自由気ままに。彼女をまるでモノのように扱わんとする私なのだが、しかし効果の程はどうなのだろうか。ふとしては恥ずかしさで縮こまってしまいそうな心を粗暴の勢いで以て打ち消さんとする私を、しかしむしろ唯は楽しんでいるのではないだろうか。いや、まさか。
 細々とした些事が心を過ぎるもあちらこちらを好き放題に、ともあれ思い付く限りの大概を施しただろうと、いよいよ酸欠で頭がくらくらとして来た私は改めて唯の様子を伺ってみるものだが、ああ、やはりそうだった。
 直近で私を捉える彼女の表情は、つい今さっき私を篭絡したその瞬間と一切が変わらず褪せることなき貪欲に染まっており、これはもう、こんな様子ではもはや私が意図するところとは明らかに反対側なのだ。分からせるつもりが結局は楽しませてしまっていて、事これに関しては、既に唯と私の間にはお話にならない程の差が開いてしまっているのかもしれない。
 悟り、当初の目的が達成出来そうにもないと分かるとやがて一線をキープしていた彼ら勢いを押しのけては、恥じらいだとかそういうものがどやどやと前面へと台頭して来る。こうなってしまってはもう、私は駄目だ。図らずとも児戯のような体たらくとなってしまっては、一度距離を置いては落ち着く他にない。
 最後に一つだけ強めにしては、さてこれで終わりだという私に対してしかし唯と来たら、身を引こうとするその瞬間にタイミング良く吸い付いて来るのだ。
 そのアプローチが全く予想外だった私がそのまま離れようとしたらば、分離の際には一際に目立つ水音が立ち上がる。妙に艶めかしく、声色も高く事後のような呼吸を繰り返す唯のそんな様子と相まって、目を逸らすことも敵わなくなってしまう。完全に魅入られてしまっては、すっかりと私は骨抜きなのだ。
 一歩引いては控えていた私に対し、不意に唯が身を詰める。それだけで私の心臓はびくりと跳ね上がってしまう。
「すごかった。やっぱり澪ちゃんって、その気になれば何でも出来ちゃうんだね」
 反射的に否定の文句を漏らそうと唇を形作るその途中でしかし、「でも、」どうやらイニシアチブのタイミングは完全に逸してしまったようだ。下がるべき背も既に部屋隅のベッドへと追いやられていた私は、唯が悠々と擦り寄って来るその状況を引けた腰で受け止めることしか敵わない。
「ちょっとだけ足りないんだ。ね、いいよね?」
 何がいいのかと噛み砕く暇さえも与えられぬままに押し付けられる。結ばれた口元を次々とがっつかれてはベッドのコーナーに頭だけが乗って、それで身動きを取れなくなった私をしめたものだとでも思っているのだろうか、微かな抵抗をしようとするそれすらも許さないといわんばかりに伸し掛かって来てはあっという間に荒らしに掛かり――これは、どうしようもない。参った。
 心中で白旗を上げている私の声など届く訳もないだろう。なす術なく、彼女からすると一番都合のいいお楽しみ道具となってしまったであろう今の私に出来ることといったら、それはもう唯が満足するまで弄ばれる以外にない。
 現に接触が深く、長くなるに連れて私の身体からはどんどんと力が抜け落ちてしまっており、既に腰砕けも当然だ。支えてくれるものがなかったらばあっという間に崩れ落ちてしまっていることだろう。自分の身体というものはこんなにも重かったものなのかと、動かそうにも一向に力の入らない四肢で以て重力の威力を実感しては、抵抗の無駄をきつく噛み締めている最中にある。
 ああ、それにしても何ていいんだろうか。そもそも私は何に対して抗っていたのか、何をしている内にこうなってしまったのか。それすらも既に覚束なくなってしまうくらいに、頭の中は唯の感触と熱と匂いとで一杯なのだ。それ以外には何もない、入り込む隙間がない。今や私の世界は唯からなっているといっても過言ではない。
 そんなことをしようとは思ってもいないのに、反射なのだろう。口は粘度の高い息を漏らし続けるし、身体は強過ぎる刺激に耐え切れずに震え続けている。普段は冷静や閑雅を保たんとする頭の中も明け透けで、もうすっかりと私は出来上がってしまって。
 だからなのだろう。そんな、ぼんやりとした頭で浸り切りながら唯を享受していたものだから、私はその予兆を一切感じ取ることが出来なかったのだ。
 ガチャリと、ノブが回って部屋の扉が内側に開かれる。ぐにゃぐにゃに溶けて駄目になってしまっている頭はそれの意味するところを一瞬分かりかね、無条件に些末なことだと切り捨てるものだがいやしかし、待ってくれ。これは、不味い。
「お姉ちゃーん、お菓子持って来たんだけど、入る……」
 ああ、やはりそうだ。そうに違いないだろう。開け放たれた扉の、直ぐそこで立ち尽くしてはいい切ることが敵わず石となる憂ちゃんと、ベッドに押し付けられたままの私は目と目がバッチリと合ってしまう。
 彼女は、状況が理解出来ないのだろう。両手で私たちのためのもてなしを抱えたその姿のままにただひたすらに困惑しているようで、押すことも引くことも思い付かないような様子でただひたすらに直立したまま固まってしまっている。
 だがそれもしかし、仕方のないことに思う。彼女からすると姉の部屋で、友達同士のはずである姉と私とが一体何をしているというのだ。一緒に勉強をしていたり楽器をやっていたりだとか、思い付いたとてきっとそんなものだ。普通はそうに違いない。それがまさかほら、こんなことになっているだなんて。それはきっと夢にも思わないに違いない。
 逆に考えてみて、仮に私が憂ちゃんならばどうだろうか。客観的に、私が彼女だとしたらばこのような状況というものには一体どのような印象を受けるものだろうか。寸時それについて想いを馳せてみたものだが、ああ、いや、いい。やっぱりいい。いずれにせよその衝撃が尋常ではないという点については想像するに余りある。有り得ない話に違いがないのだ。
 一体全体、混乱が過ぎているのか、あっちこっちに思考が飛び火しては寄り道を繰り返す私だったが、そもそもそれどころではないのだ。夢中になってしまっている唯はどうやらこの状況に気付いていないらしく、相変わらずの勢いで以て私を抑え付けては貪っているような始末で、引っ剥がそうにも力の抜け切った私の柔腕ではとても敵わない。
 それでも幾度かの抵抗を試みたのちにやはり無理を悟った私は、待ってくれ、これは違うんだと――斯様な意思表示をしようとするものだが、塞がれる口からはそれら弁明を漏らすことも敵わず、んー、とか、むー、とか変な唸り声を上げながらも必死な視線を彼女へと飛ばし続けるという惨めな結果に終始してしまう。憂ちゃんは盆を持ったままにそんな私たちをただひたすらに眺め続けている。何なんだろうか、これは。
 しかし、暑い。どうしてか、それほど気温が高い訳でもない室内であるというのにシャツの内側にはじっとりとした汗が溜まって、更に上から唯に覆い被せさられているものだから、相当に蒸す。
 とっくの昔に大半が吹っ飛んでしまっているようなものだったが、残り僅かだった理性たちもこんな環境の中では次第に蒸発をしてしまい、もうダメだ。憂ちゃんが目の前だというのに、私は唯にぐちゃぐちゃにされるのが心地よくて仕方がない。
 私の気も知らず、空気も読まず。それでもようやっと、気の向くままに私の純情と肌とを汚し切った唯は解放をしてくれる。離れても唯と私のものの間には粘度の高い銀の橋が掛かって、それがまた楽しいのだろうか、上げたり下げたり振ったりしながら遊んでいた彼女だったが、それもやがて張力を失っては断ち切れる。ぴちゃりと私の頬に降り落ちたそれを改めて舐め掬った唯は、
「よかったぁ」
 心底幸せそうに、こうだ。
 軽く頬擦りをしてはまた始めてしまいそうなその雰囲気にしかし私も満更ではなく臨んでみたいものなのだが、それでも唯の背中越しの、そこに変わらず佇む憂ちゃんの姿を改めて認めてはなけなしの活力を総動員し、蕩け切った脳と身体へと鞭打って最後のアクションを起こす。
「ゆ、唯……」
 我ながら何というみっともない声だろうか。とても人様には聞かせられたものじゃないようなそれも、しかしこの際仕方がない。最優先事項なのだと自らを奮い立たせては左腕を入り口の方へと向け、視線を併せてそちらへと飛ばす。
 こんな簡単な作業ですら既に必死な私の想いは果たして唯へと届いてくれたようで、寸時不思議そうな顔をしていた彼女だったが、こうも至近で見合わない私の視線を追い掛けるように頭を巡らせては、
「あ」
 平沢姉妹の膝がそれぞれ同時に震えたのを、私は見逃さなかった。
「お、お菓子、持って来たんだけど……」
 そこまでやり終えた私はもう限界だった。上げていた腕をくたりと脱力させ、この後のやり方についてはひとまず放り投げ、頭にようやっとの休止を与えるのであった。


 平沢家のリビングには沈黙が蔓延っていた。憂ちゃんがせっかく用意してくれたお茶とお菓子も、それぞれ手を付けられることなく飾りと化してしまっている。
「あ、その……澪さんはお砂糖とか入れましたっけ」
「い、いや大丈夫。このままでいいよ」
「そうでしたか、あはは……」
 一向に進まない私に取り留めのない話題を振ってくれる憂ちゃんだが、申し訳なくもこれ以上をどうやって返したものだろうか。せめて体裁を保つためにと、カップを手に取りほんの少しずつをちびちびとやる私は、
「相変わらず美味しいよ」
「あ、ありがとうございます」
 共に苦笑いを表情筋へと張り付けながら、まさしくこういうことを茶番と呼ぶべきなのだろう。既に味などよく分からなくなってしまっている舌だというのに、私と憂ちゃんは本来美味であるはずの紅茶を事務的に喉へと落とし込んでは乾いた笑いを交し合うのだ。
 カチカチと、掛け時計の針が秒を刻む音がやたらと耳に響く。分が動く際には少し大きめにガチャンといった音を立てながら、大義そうに分針がその身を移す。普段は何ら意識することのなかった平沢家の生活音が今は身に染み入るようで、しかし何とも居心地が悪い。
 先程、現場を押さえられた形となった私たちは、場が凍りつくとはまさにあのようなことを指すのだろう。とにかく肝が冷え入るような間を暫し続けたのちに、まさか事後の空気漂う唯の部屋で茶会という訳にもいかず、しかし目の当たりにしてしまった憂ちゃんをそのまま帰す訳にもいかない。どちらともなく階下のテーブルにてティーブレイクを提案しては互いに反対などあろうはずもなく、今このような場が開かれている訳なのだが。
「お、お姉ちゃんもどう? 早くしないと冷めちゃうよ」
「う、うん! 憂の淹れてくれるお茶はいっつも美味しいなあ」
 とかいいながら一気飲みである。皆が皆どこかぎこちなく、全く見ていられたものじゃない。
 気分を紛らわすためにと私も憂ちゃんお手製のクッキーへと手を伸ばして一齧りをするが、やはり味がよく分からなく、何とも勿体ないことではなかろうか。
 しかし、これはどうすればよくなるものだろうか。まさかいつまでもこうして三人でお見合いを続ける訳にもいかず、そして、仮にも年長者である私たちに対して憂ちゃんがどうしてあんな、などと訊ねるにも抵抗があるのではないだろうかと思う。少なくとも私には絶対に無理だ。すなわち消去法で考えるのならば、状況に変化を与えるためには私か唯が動かなくてはいけないのだが。
 私はちらと横目に唯を見遣る。出来ることならば彼女にお願いをしたいと、そのような望みを込めてのものだったのだが、しかしそこには普段のゆるさ適当さが欠片も見受けられず、不味いことをしてしまった、これからどうしようといった態の心情が雰囲気へとありありと漏れ出てしまっているらしくない姿の彼女が座しているのだ。余裕がないというのはまさしくこのことで、私も大概そうであろうけれども唯にしては至ってもそうだ。こんな状態の彼女にはとてもではないがやらせられたものではないだろう。
 とまれ、何ら落ち度のない憂ちゃんにこれ以上こんな空気を強要することも出来ない。先程からどうにも胃の辺りがむかむかとして仕方がないのだが、とにかく私が何とかしなくてはならないのだ。
「憂ちゃん」
「は、はいっ!?」
 突然声を掛けられたことに驚いたのか、語尾が変な感じに捲れ上がってしまっている彼女にむしろ私が尻込んでしまいそうな程なのだが、いや、怯んでもいられない。ここにいる私たち皆のためにも、互いに抱えている一切の懸念を払拭するのだ。
「実はその、さっきのことなんだけど……」
「は、はい……」
 いよいよ本題かと神妙に頷く憂ちゃんに、そう。さっきのことなのだが、しかし何だろうか。とにかく切り出してみたものの、冷静になってみよう。あの状況を私はどうやって彼女へと説明するべきなのだろうか。
 客観的に当時を分析してみる。

 私は唯と二人きりで、唯の部屋にいた。
 憂ちゃんからすると私たちは当然のように、楽器の練習や勉強、あるいは他愛のないお喋りに興じていると思うことだろう。
 だがあろうことか、いつものようにお茶を届けに来てくれた憂ちゃんが扉を開けたその先では、唯が私を押し倒すような姿勢でいるのだ。しかもおふざけだなんてそんなもんじゃなく、とんでもないガチっぷりで。
 極めつけは唯の言質。「よかったぁ」。

 頭が痛くなりそうな程にいい訳のしようのない状況だったのだなあと、検証を重ねる度に思わず泣きが入りそうになってしまう。
 私はこれら問題点を一つずつ取り除き、弁解していかなくてはならないのだ。それなりの理論武装が必要となって来る――なって来るのだが、どうにも上手いイメージが浮かばず、そもそも正道でどうこう出来る問題ではないと思うのだ。何か、別口から絡めていかなくてはいけない。
 ふと。だとしたらそうか、こういう手はどうだろう。
「その、憂ちゃんからはどういう風に見えた?」
「わ、私ですか!?」
 唐突な振りへと盛大に驚く彼女に、我ながらずるいとは思いつつもしかしこうやって少し時間を稼がせてもらおう。
 どうにも私は一人で勝手に思い込んだ末にネガティブな思考に走り過ぎるきらいがあるものだから、慮っているつもりである彼女についてもどうにも勝手な私の像で決めつけているような感覚が否めない。故に、調整が必要なのである。彼女の言葉を聞きながら温度差や段差のような、そういうものを少しずつ折衝していかなくてはならないと思う。
「ええっと、その……」
 ちらちらと、唯と私の様子を伺うように俯きがちな面からこちらを見やるその仕草はさすがに姉妹なだけあって唯にそっくりである。普段が完璧に近いものだからこのような姿はなかなかお目に掛かれないものだが、やはり年相応なのだなあと緩み始める気にしかし、私が今すべき仕事は適度な緊張を保って、憂ちゃんが望んでいるであろう適当な答えを間違いなく献ずることにある。余計を考え過ぎてはいけない。
「その、澪さんとお姉ちゃんは、その、」
 そこまでいってはまた視線を他方へ飛ばしてごにょごにょとやる彼女だったが、やはり覚悟が決まらないのだろう。辛抱強く待っていると、それもやがて続きを述べ始める。
「お付き合いをしているとか、そういう関係なんでしょうか。あ、いやでもお付き合いとかそんな、女の子同士でそういうのも何か変な感じですけれども、でも、そうじゃないと普通ああいう……ああいうのってやりませんよね。仲が良ければお友達同士でももしかしたらするかもしれないですけど、でもなんか、澪さんとお姉ちゃんのはちょっとその、それよりもちょっとすごかったかなって思って。上手くいえないんですけど、その……」
 一度口火を切ったらば止まることが出来ないのだろう、マシンガンよろしく壮絶な勢いで懸念を捲くし立てる憂ちゃんの言はしかし全く以てその通りで、「私の勘違いだったら本当にすいません」と締め括るその時まで間違いなど非ず、それら一切が妥当である。私はやはりこれら的確な疑問群に対して適切な回答をしていかなくてはならないのだ。
 お付き合いをしているかどうか――憂ちゃんが重きを置く論点はやはりそこだろう。
 世間一般的な観点からして、個人と個人が恋仲になるというのは大変な事情であって、それは私にしても例外ではない。例えば幼なじみである律に彼氏が出来たとかいきなり告げられたその日には大層驚くこと間違いなく、理由など知れたものではないが、とにかく思春期真っ盛りの私たちにとっては関心の度合いが強い話題なのである。それら関連性を踏まえた上で、果たして私と唯の関係というやつを今一度考えてみるとどうなるだろうか。
 然して、初めて人並みというラインを踏み越えたあの日、私たちはどんな風であったかと寸時を巡らせるが――いや、今更となって思い出すこともないのだ。そこまでせずとも唯とのことは頭に染み付いており、考えずとも答えは出ている。
 私と唯は、友達である。それも、気が置けないとても大切な親友だ。
 私は唯のことが大好きであるし、きっと唯も私のことをそのように思ってくれているはずである。これが仮に私の勘違いから来る一方通行であるというならば、私はショックで暫くの間、自失をしてしまうかもしれない。
 ただそれも、私たちはあくまでいい友達同士なのであって、恋人だとか何だとか、そんな滅多な関係から来るような感情ではないということに関してだけは添えておきたい。
 難しいことは分からないが、シンプルに消去法というやつだ。友達と恋人というやつは一般的に考えてみてとても両立出来るような属性ではなく、すなわち互いに排他的なのであれば一方の友達というやつを選択すれば必然、他方である恋人という項目は自動的に排除されることになるのだ。
 詭弁に聞こえるだろうか。しかし、今の私にどうやってそれ以外の答えを寄越せたものだろうか。
 そう、ここまで至っているのだ。結論である。
「付き合っては、いないよ」
 非常にデリケートな話題であるためにいうかいうまいかを悩むところではあるが、しかし一番の大問についてなのだ。誤解があってはならないし、まずはここをはっきりとさせないといけない。
 やはりというか何というか、いや、いずれにせよ私が肯定をしようが否定をしようが憂ちゃんは驚くことかと思うのだが、意外そうな顔を隠せもせずに私を見遣るその姿を見ているとやはり極論の断言だけではいけない。フォローが必要となる。
 私は視線を唯に置き、次善を模索しつつも、間を途切らせないように続ける。
「私と唯は友達だよ。憂ちゃんからするとあんなことをしていて友達っていうのかって感じかもしれないけど、そこは間違いがない。私たちは友達なんだ。恋人同士じゃない。付き合っているかどうかっていうことに対しては、これで回答になっているかな?」
 唯から憂ちゃんへと目を移し、緊張と重圧とでダメになってしまいそうな蚤の心臓を鎮めながら、それでも私は震えてしまいそうな声色を努めて抑え込みながら伺うのだ。
「お姉ちゃんも、そうなの?」
 少々の間を置いてから訊ねて来た憂ちゃんへと若干の挙動不審を見せる唯ではあったが、それでも先の私の振りが効いたのかもしれない。
「う、うん。間違いないよ。澪ちゃんは大切なお友達だよ」
 いつになく真剣な面で切り替えしてくれる唯に陰ながらの感謝を捧げる。ここで私たちの意思に統一感が得られなくては憂ちゃんに納得をして頂くことなど敵う訳もないだろう。そのつもりでいたのは私だけなのであって唯は違っていました、となっても何ら不思議ではない話題であっただけに、この同意は心強い。大丈夫だ、私たちはしっかりとお互いの立場というやつを理解出来ている。
 姉の言質も取れてと、いうなればこれは私と唯からのオフィシャルな回答なのだ。それを踏まえた上で憂ちゃんは果たして何を思っているのだろうか。
 手を組んでは考え込んでいる斯様な様子を見ている限りでは、しかし理解という段階に至る道程は程遠く感じる。私たちの言葉を飲み込むというよりはむしろ汲んだ上で次の疑問をどうしたらいいものかと考えているように見受けられるのだ。
 そしてやはり、その見については相違なかったようで、
「あの、それでも、お姉ちゃんと澪さんがお友達だったとして。仮にそうだとして、でも、お友達ってああいうことを、その……普段からするものなんでしょうか……」
 とつとつと述べる憂ちゃんの意図するところは、まさに先刻唯の部屋で対面した際における私たちの痴態に違いがなく、果たして、いよいよ核心で来たものだ。私にしても唯にしても事これについては弁解のしようも何もなく、そこで実際に起きていた客観的な事実なのだ。内々的にはこうでありまして、などとは通ったものではない。
 出来ればなかったことに、それが叶わぬのならばせめてこの場から逃げ出してしまいたいような念に駆られる私なのだが、しかしこの度の談合においては、これについての回答が最も重要、且つ厄介なものなのである。投げることも敵わない。
 何度振り返ったことだろうか。恋人でも何でもないのに日々彼女の家にやって来ては浅く肌を重ねて、それと常たるものとし、よしとし――客観的な視点からするとそういう風に見えても仕方のないようなことをやっているのだ、私たちは。
 繰り返される行為自体、それ以外のところに確固たる理由がないということは、浅慮と断じられようが何とされようが、仕方のないものである。
 誠以て遺憾なことではあるのだが、斯様な方面からの回顧を重ねる度、私と唯の所懐ということで伝えた『友達』というプロパティからは大きく逸脱してしまうような行為を、私たちは常日頃から繰り返していたのだと痛感させられる。
 私たちは、私たち自身を友達だという。それも、女同士であって。しかしその女同士の友達というやつが、果たして今の私たちと似たようなことを、それもおふざけでは済まされないような踏み込みに至るまで行うものだろうか。
 実際、一般論をベースに宛てがってみても、この問題については有り得ないの一点に集約されることだろうと思う。それもそうなんじゃないだろうか。仮に私として考えてみて、今まで律とはとても長い付き合いで友達というやつをやって来たが、この度の唯とのような関係に及んだことなど只の一度もなかった。やるとかやらないとかそういう発想以前、そもそも有り得ないのだ。斯様な認識が浮かびすらせず、そしてこの場合はそれこそが世間一般でいうところの当たり前というやつなのだろうと思う。そうじゃないとほら、世の中色々と上手く回っていかないだろう。そこいらで男同士、女同士のカップルが出来てはべたべたと引っ付いているような光景を想像すると、やはりそれは私ですら何かしらの異常が生じているのだと思うに違いない。正味な話、あまりお目に掛かりたくはない。
 そうなると、逆説である。憂ちゃんから見える私と唯の関係は今、間違いなく私曰くところのお目に掛かりたくないというそちら側に属しているのだ。第一に身内であるといってもいいであろう私たちがだ。しかし、何だ。考えれば考える程に訳が分からなくなって来てしまいそうだ。
 果たして憂ちゃんに対してはどうして返したものだろうか。的確な返事が全く浮かばない。当事者であるはずの私と唯の間ですら明るくないこの話題については、どうやれば正解なんだ? 全く以て分からない。
「友達と……」
 私は、いつの間に口を開いていたのだろうか。脳が命令を与えるいる訳でもないのに独りでに声帯が震えているような、そんな自らを少し遠いところから眺めているかのような、妙な脱離感を覚える。
「友達と、恋人の違いって、ほんと何なんだろうな……」
 果たして、零れた妄言は質問に対し質問を返すという非生産的且つ、非効率的なものであった。
 私事ながらこの発言によって彼女らに期待するものが定かではないのだが、どうにもこれは先の憂ちゃんへの回答、あるいは彼女らに対する質問だとか、そういう明確な意図を含んでのものではなく、完全に私の胸の内から滑り落ちた放恣であるかのような態を強く感じる。
 それも、どうしてだろうか。目の前に平沢姉妹が座して私の発言へと注目しているというのに、私はまるで中空へと夢想を呟くかの如く止めることが敵わない。
「私は唯を友達だと思うと同時に、本当に可愛くて仕方がないと思っちゃうんだ。ふわふわしてて、柔らかくてさ、いい匂いで、こんなダメな私に対してもとんでもなく優しくて」
 果たして、私は今どこを見ているのだろうか。誰に喋っているのだろうか。まるで自分が自分でなくなってしまったみたいで。どうしてだろうか、この喪失感がどことなく心地よい。
「はじめは唯からだったんだ。それでも私に拒否権はあって、でも私は拒まなかったんだ。唯とだったらいいかなって、ちょっとした興味本位みたいな感じでしちゃったら、でも、私は初めてだったんだよな。ああいや、嫌だとかそういうことは全然なかったよ。でもやっぱりそういうのって普通、男の子とするべきものだよね。女の子とだなんて、当たり前にすると何か嫌な感じがしそうなものだけど、唯は可愛くて綺麗で、そんな唯と一緒ならと思うと嬉しかったし、悪いことなんて何一つなかったよ」
 一つ息を吸う。
「でも正直驚いたんだ。嫌だとか何だとか、今私はそんないい方をしていたけど、唯と一緒にいたり触れ合ったりするのって、何ていうのかな、楽しいとはまたちょっと違って……とにかく、その、私にとってはいいものだったんだ。出来ることならずっとそうしていたいって思ってしまうくらい。唯も私とそうするのを嫌がらないものだから、だから私はどんどんと調子に乗ってしまったんだと思う。気付いたら唯に会うために部活後はこうやって通うようになっちゃったし、いや勿論、きちんと楽器の練習だとか学校の勉強もしているんだ。けど、それが終わったあとの、唯と一緒にいる時間が今の私にとっては何よりも大切で。何なんだろう、自分でももう、自分がよく分からないっていうか、その、上手くいえないんだけど……」
 そこまでいってようやっと視線をテーブルの方に戻すと、真っ赤な顔を見合わせたり俯いたりを繰り返す平沢姉妹が目に入り、これはどうしたものかと。今し方私が発言した内容について頭を巡らせてみるのだが――いや、待て。
 思うと、まるで今の一幕は唯に対する想いの自白に近いものがあったのではないか。そもそも、やったことも聞いたこともないものだから普通の方々はどういうやり方をするのか見当もつかないのだけれども、あんないい方をしてしまっては他に取りようなんてないような気がする。何てことをしてしまったのだろうか。
「あ、その……つまり……」
 何か言葉を捻り出そうとしてもその何かが一向に顔を見せない。短くてもいいから何か話さなくてはと思うその度に思考は空回りをし、心臓はドクドクと脈打ち、変な汗が噴き出しては余計にアイディアが浮かばなくなってしまう。
 ああ、これはダメなパターンだ。今でこそそういうことは少なくなったが、小学生の時とか、授業中に皆の前で発表することを出し抜けに先生から強制された時のような感覚を思い出す。こういう時の私は決まって上手くいくことなど非ず、結局は誰かの助け舟に乗って辛くも難を逃れるような態だったのだが、私を助けてくれるであろう、その某さんが存在しない今この時のようなケースは初めてなのだ。
 沈黙がやたらと重い。分かってはいるんだ。この場は私が一人でどうにかしなくてはならず、どうやらそれは先に延ばせば延ばす程にやり辛くなるような属性を含んでいるのだ。そうなるともう――何でもいい、いってしまうべきだ。この場を締められるような何か決定的な一言を。
 そうして自分でもよく分からない決心を、途轍もない覚悟とエネルギーでして固めて打ち放った私なのだが、あとから思うとやはりこれがいけなかったのだと思う。
 私は憂ちゃんをしっかりと見据え、そして聞き違えなんて出来ようはずもない。さっきまでの臆病がどこにいったのかと思うくらいにハキハキとした口調で、それは高らかに謳ったのだ。
「唯は、私が幸せにします」
 変わりなく正確に刻まれる針の音が、水を打ったように静まり返る室内へとそれはもう、痛い程に染み渡った。


「何か、お姉ちゃんと澪さんを見てたら当てられちゃいました。そうだ! 美味しいご飯を作りますから、今日は泊まっていきませんか? いつものことですけど両親もいないですし、もっとお二人のお話が聞きたいです」
 件の話し合いの直後。どうしたものか、憂ちゃんはそういって私へと一宿を提案して来た。
 私としても今日から週末に掛けては特段の用事が入っている訳でもなく――あるとしても唯と作曲の続きをするというそれだけだ――何よりも憂ちゃんがあれで納得したという保証もない。一も二もなく受けることにしたのだが、どうやら唯からすると違う観点からして当座についての落着に至っているようなのだ。
 曰く、
「憂ってあれでなかなかおませさんだからねえ。今日は色々と根掘り葉掘り聞かれちゃうかもしれないね。もしかしたら、今夜は寝かせてもらえないかも」
 その発言の真意を図りかねつつも、いずれにせよ一泊の用意が必要だと。そうして一度家に戻ることとした私へと、憂ちゃんに勧められた唯が付き添ってくれることとなった。
 不意に見上げてみると成程、夕焼け空も本日はどうやら営業終了のお時間らしく、辺りの景色はオレンジから黒色へとその身を移す真っ只中だ。まだまだ春には程遠い寒空がその寒気を一層に強めては吐く息が白い煙をなし、暮れ時の情緒に拍車を掛ける。
 私の隣を歩く唯の手には憂ちゃんから持たされた、今夜の食材に必要な材料のメモを連ねた紙片が握られている。何やら本当に豪勢なものを用意してくれるらしく、細かなものまで含めると上から下までびっしりの食材やら調味料が並べ立てられているのだ。鍋物ではあるらしいが、彼女のことだからきっと私には及びのつかないようなすごい料理を作ってくれるに違いない。
 ところで当の憂ちゃんは私たちが一度用意をして来る間にでも買出しに出るといっていたものだが、しかし紙をちらと眺めただけでもこれ程の食材なのだ。一人で持つには辛いものがあるだろう。彼女にはひとまず下ごしらえをやってもらうこととして、私が家に寄るがてら唯と二人でスーパーを当たるという段取りで納得頂いた。今頃は有り合わせの食材で用意出来る範囲の準備に取り掛かっていることだろうと思う。
「それにしても」
 まさにそれにしても、だ。いつの間にか、まるで別人のように気の軽くなっている様子の唯と、それに合わせるかのように険の取れた憂ちゃんの様子を不自然に感じている私は果たして見当違いなのだろうか。あるいは憂ちゃんのことだ、こういう話をするためにと気を利かせてくれたのかもしれない。いずれにせよ今でないと出来ないことであろう、私は唯へと訊ねてみることにする。
「憂ちゃんはその、大丈夫なのかな、私たちのこと。あんなんじゃまだ上手く説明出来た感じがしないし、その、何かすごいテンパっちゃって私、訳の分からないことをいっちゃって」
 自分でも尤もなことだと思う。というよりもどうしてあんなほら、とんでもないことを口走ってしまったのだろうか。ありえないだろう。今思い返してみても顔が熱くなる。出来るのであればその瞬間に戻って、あの痴態をなかったことにしたいものだ。
「うーん、まだ全部大丈夫って訳じゃないと思うけど」
 いつものように飄々とした様子の唯だが、やはり彼女たちの間の問題は彼女たちが一番よく理解しているのかもしれない。一見すると適当なようであって、しかし互いが互いに的を得ているというか、そのような感じがするのだ。
「多分大丈夫。きっとね、私のことが心配なだけだったんだよ。憂ってばほら、私のこと大好きだから」
 えへへ、と自分でいいながら照れ笑いをするその様子を見ていると、しかし姉妹というのはいいものだなあと本心からそう思う。何やら一方的に唯の方が憂ちゃんに可愛がられているような気がしないでもないが、その感覚も今の私ならば何とはなしに分かる気がする。
 もし私もその輪の内に交ざることが出来たならば――そう試しに考えてみたものだが何だろうか、その光景はとてもいいもののような気がして。一人っ子の私からすると決して叶うことのない温かみに溢れている姉妹という絆は、胸の内から溢れ出るような憧憬を誘って止まない。どうして私は平沢澪ではなかったのだろうか。
「でも、ほんと。さっきの澪ちゃんにはドキッとさせられちゃったよ」
 あり得もしなかったもしもの世界に想いを馳せている私へと悪戯っぽく話し掛けて来る唯は、心底嬉しそうでありながらも少々の照れを面に浮かべて続きを述べる。
「『唯は、私が幸せにします』だなんて、ほら。もうプロポーズじゃあないですか! いやあ、人生長いこと生きてればいつかはそういうこともあるのかなあとか思ってたけど、まさかこんな早く起こるだなんて想像もつかなかったよ。そりゃ、憂も納得しちゃうよね!」
「ああああ、あれは、その!」
 おかしくて仕方がないと、歯を見せながら満面の笑みで以て私を茶化す彼女に対して私はひたすらに焦りを返すことしか出来ない。
「何かその、あの時はとにかく何かいわなきゃって思っててすごいテンパってだな、そう、何でもいいからいっちゃえって思ったら、あんな、その……」
 言葉にもなりゃしない。すなわちテンパってさえいれば私はあんなことを唯に対して口走ってしまうような、頭の中ではいつもそんなことを考えていますと白状しているようなもので、何だろうか、喋れば喋る程にドツボにハマっていっているような感じがするのは果たして私の気のせいなのだろうか。
 こんなにも外は冷えるというのに冷や汗が止まらない。どうにも今日は平沢姉妹に振り回されては心急いてばかりだ。平穏無事、天下泰平を尤もとする私からするともう少しこう、波風立たぬ穏やかな日々を送りたいと常日頃から願っては止まないものなのだが、おそらく彼女たちと付き合っている以上それは叶わぬ類の願いなのだろう。
「もお、澪ちゃんは本当に可愛いなあ。おお、よしよし」
 そうやって何もかもを分かったかのように私の頭を撫で付ける唯で、ああ、これだからダメなんだ。きっとこれから先も私の主張なんていうものはこんな風にうやむやにされて、それはまるで彼女の玩具のような態と感じてしまうのだが、それはそれでいいなあと思ってしまっている自分もまたここにいて。だってほらそんな、悪いことなんかないじゃないか、こんな。
「い、家に帰ったらちゃんと憂ちゃんに説明するんだからな! さっきのは、その、ちょっと間違えちゃったんだって!」
 そうやって苦し紛れに吠えてみるのだがやはり唯はニコニコと、うんうん、の一点張りで。
 少し寒いくらいの夕焼け空が、火照った私の頬には丁度いい塩梅だった。


「お待たせしちゃってすいません、お口に合えばいいんですけども」
「んまぁい! これおいひいよ、憂!」
「お、おい、唯。少しは落ち着いて食べたらどうだ」
「だって、すごく美味しいんだもん!」
「鶏つくねだね。お姉ちゃんが好きならまた今度作ってあげるよ。澪さんも、さ、どうぞ食べてください」
「あ、はい、戴きます」
 着席したその瞬間から目を爛々と輝かせては鍋から立ち上る湯気へと直接かぶり付かん様子の唯にしては、一同で会食のスタートを宣言するや否ややはりご覧の有様だ。
 ともあれぼんやりとしていては何かもがなくなってしまいそうだ。私も取り掛かろう。そうして唯が美味しいと一言する鶏つくねを一摘みしてみるが、成程。確かにこれは旨い。
 控え目に付けられた味に隠れて、これはおそらく生姜だろうか。程よい刺激が舌に乗ってはご飯にも合うものだからついつい次へ次へと箸が進んでしまう。事あるごとに憂ちゃんの手料理にはお世話になっている私だが、しかしこうして改まって食べる度にその腕前の程を実感させられる。ここまでいかずとも、私も多少なりとも出来ればいいものだが。
「うん、唯じゃないけどすごく美味しいよ。憂ちゃんの料理なら毎日でも食べたいなあ」
 私としては何の気もなしにいったつもりであったのだが、
「もう、澪さんたら上手なんですから。そうやってお姉ちゃんもモノにしちゃったんですか?」
「ゆ、唯は関係ないよ!」
 唯を引き合いに出されるだけで途端に慌て出す私を見てはさもおかしそうに笑う憂ちゃんで、私からすると一切が間違っているような事情なのに、さも分かっていますといわんばかりのその振る舞いにはいやはや参ってしまう。
「んまぁい! 憂、ご飯お代わり!」
 そうやって私と憂ちゃんが水面下で熾烈な駆け引きを繰り広げている内にも話題の当人と来たら既にこうだ。一体この細い身体のどこに入っていくのだろうか。茶碗を受け取った憂ちゃんも次の次を見越してか、器からはみ出さんばかりのまさに山盛りを付けて返す。
「澪さんも、遠慮しないでどんどん食べてくださいね」
 そうしたいところは山々だが、唯のペースに合わせていては家に帰ってから体重計に乗ったその瞬間に悲鳴を上げること請け合いだ。空いた器へとよそってくれる彼女に一礼しつつ、こちらも出汁が効いているものだから十分に旨い。私は白菜や菌類などでヘルシーにいかせてもらうこととしよう。
 それにしても、何だろうか。
 こうやって憂ちゃんの手料理を突付きつつ、仲良く談笑に興じる姉妹の姿を眺め、たまに話題を振られてからかわれたりしてはそれなりの対応を返し、そうしてまた美味しいご飯を頂いて――どうしてだろうか、うちの食卓が不満だということは全くないのだが、決して慣れ親しんでいる訳ではない平沢家のこの晩餐に、まるで小さな頃からずっとそうして来たかのような不思議な馴染みを覚える。
 三人で仲良くご飯を頂いたこのあとはきっと、私と唯とで一緒にダラダラとテレビなんかを見たりしながらソファーでだれているんだ。働き者の憂ちゃんが食事の片付けをやり終えた頃には、仕方ないなあ、とか漏らしながら私たち二人の元へとデザートのアイスなんかを持って来てくれたりして。
 そうして私たちは一日の終わりという時間帯が含む独特の倦怠感を満喫しながら、何一つ嫌なことなんてないその日常に充足感を抱きつつ、きっとそうやっておやすみまでの時間をゆるゆると送りながらまた明日を迎えるのだろう。
 どれもこれも一人で片付けていては無機質なものになりがちな毎日のルーチンワーク。それも彼女たちと一緒であるならばきっといいものになるに違いない。
 唯がいて、憂ちゃんがいて。そうやって、日々が色付いていくのだ。
「澪ちゃん、どうかしたの?」
 胸の内にて密かに彼女たちと送る毎日について想いを馳せていたらば、不意に唯から声を掛けられる。
 どうかしたのかと問われても、何についての指示なのか私にはさっぱりと分からないのだが。しかしそこも汲んでくれたのだろうか、憂ちゃんが次ぐ。
「何かすごいニコニコってしてたので、澪さん。どうしたのかなって」
 ああ、そうだったのか。自分でも気付いていなかったものだが、自然と笑みが零れてしまっていたらしい。だって、それも仕方ないんじゃないかな。こんなにも楽しくて、嬉しいことがあるんだ。そりゃあ私だってついつい溢れてしまうというものだ。
「ふふ」
 他愛もないことだが、今この瞬間、こういう穏やかな時間はおそらく私の人生、一生涯を通してもそうそう訪れるものではない気がする。それ程までに今彼女たちと送るこの時は私にとっては満ち足りていて、しかもそれがいいものだとしっかりと自覚することが出来ているのだ。その素晴らしさの受け取り方にも過不足ない、押し過ぎず引き過ぎず、ただあるがままにこの至福を賜って。
「ちょっと、幸せだなって思ってさ」
 私は、果報者というやつだ。


 図らずともやはり食後は居間のソファーでぐったりとくつろぐ我ら年上組と、使った食器を台所にて片付ける勤勉な妹君とに分かれる次第となった。あまりにも想像通りの光景であったために、どうにも情けなくなってしまった自分に反抗心を抱いては手伝いを提案したのだが、
「お姉ちゃんとゆっくりしていてください。私、好きなんですよ。こうやって皆が食べるための準備をしたり、片付けをしたりするのって」
 そこから数度の問答を重ねたものだが、どうやら憂ちゃんは冗談や遠慮でそのようなことをいっているのではなく、心底この仕事にやり甲斐と誇りを感じては日々立派に勤め上げてくれているらしい。こうなっては私の出張るところなどあったものではなく、お礼を一つ投げては邪魔にならないようにと、ソファーの上に陣取るアザラシの元へ戻ることと相成ったのだ。
 壁際に設置されているテレビには世界中の珍しい動物たちの姿や、その生態を観察してまとめ上げてはドキュメンタリー風に編集した番組が映し出されていた。私はあまり見ないものなのだが、果たして唯はどうなのだろうか。さっきの様子を見ているとテレビを点けてはまず最初に映ったチャンネルをそのまま垂れ流しているような印象を受けたものだが――どうやら見立て通りであったらしい。
 私が戻って来るや否やテレビなどそっちのけに自らの横、ソファーの空いてる部分を片手でポンポンとやる彼女に、いわれなくてもそのつもりだった。弾みがあまり起こらないようにゆっくりと唯の右隣に腰掛けては、他にやることもないだろう。他愛のないお喋りに興じることとする。
 話題の中心はやはり今食べたばかりの憂ちゃんの料理についてだ。どうすればあんなにも上手なものが作れるようになるのだろうか、やはり日々の修練の賜物なのだろうかと、私たちは口々に彼女の腕前を褒め称える。
 話の流れで、「もし大学に進学することになったら、ぼちぼちこっちについても勉強していかないとな」とか今後の食生活についての憂慮を示す私に対し、「憂に作ってもらうからいいもん」と現実をよく分かっていない返しを寄越す相変わらずの唯であって、その様子に呆れながらも変わらぬ怠けぶりを小突いていると、どうやら憂ちゃんの方も仕事を終えたらしい。
「澪さん、お隣いいですか?」
 テーブルへとそれぞれのカップを配しながら訊ねて来る彼女に、まさか否と返せる訳もないだろう。一も二もなく頷いては唯に詰めるよう要請する。
「どうぞ」
 空いたスペースを差し出すと、一礼ののちに憂ちゃんはゆっくりと静かに腰を掛ける。三人分の荷重を受けたスプリングがぎい、と小さく軋んでは、果たしてそれだけのことで自らの体重増加を気にする私は過敏であろうか。憂ちゃんの作るものは何でもかんでも美味しいものだから、その点だけはどうにも心掛かりとなってしまうんだ。
 ――ともあれ、それから私たちは暫くの間を取り留めのない話題でリレーする。画面でこちらに視線を向けるチベタン・マスティフが可愛いだとか、つい最近まで制作に勤しんでいた新曲のことだとか、あまり楽器についての知識のない憂ちゃんは私たちの愛器についても興味津々の様子だ。
「へえ、楽器にも色々種類があるんですねえ。ところで澪さんの使ってるベースって、あれは何ていうんですか?」
「あれはね、フェンダーっていうメーカーの、ジャズベースっていうタイプのベースなんだ。買う時は色々と悩んだんだけど一番ピンと来たのがそれでね」
 自らのフィールドの話題となるとついつい私も熱が入る。
「ジャズベと来たらやはり対抗馬としては同じフェンダー社のプレシジョンベースっていうものが挙げられるんだけどね。それと比べると全体的にクセがなくて、プレイアビリティだとか音の繊細さ、音作りの幅に優れていて、何より私的にはあの、ピックアップが二つっていうのがいいんだ」
「プレベも勿論かっこいいけれども、やっぱりここが一番の決め手だったかなあ。今になってこそやっと分かって来たことなんだけれども、このピックアップの配置のお陰でいかにもああいう、ジャズベっぽいいい音が出るんだなあって。見た目もどこか、バランスがよくて好きでね」
「プレベの荒々しくてず太い音も好きだけれども、やっぱり私はジャズベかな。綺麗で、繊細で、手元の感触をそのまま素直に音に表してくれるっていうか。今となっては、自分でもいいものを選んだと思っているよ」
 半ばうっとりとしながら一息で吐き出した私はそこでようやっと彼女らに視線を巡らすのだが、二人共に呆けたような顔で私を見遣って、な、何だろうか。私は何か不味いことをしたのだろうか。
「あ、あれ、私何か変なこといってたかな」
 不安になっては縮こまりながら訊ねる私に、何がおかしかったのだろうか。平沢姉妹は仲良く一緒に笑い出して。
「いえ、全然変じゃないですよ。ただ、澪さんって本当にベースのことが好きなんだなあって思って」
 と、右から憂ちゃんが。
「そうなんだよお。音楽について語らせると澪ちゃんの右に出るものはいないんだから! 私もいつもこんな感じで教えてもらってるんだ」
 と、左から唯が。
 こうなるともう二人の独壇場だ。普段の音楽室での私の立ち居振る舞いなどを材料にどんどんと盛り上がっては留まることを知らない。図らずとも挟まれるような形で姉妹から賞賛のステレオを浴び続ける私と来たらもう、褒められているのだろうけれども恥ずかしくなってしまって、素直に喜べたものではないじゃないか。
「ほらほら、憂も触ってみてよ澪ちゃんの指の先っちょ!」
 そうしては私の左手を取って人差し指を憂ちゃんへと差し出し、
「わ、ほんとだ。ものすごく固くなってる。頑張ってるんですねえ、澪さん」
 そうやって前からうしろから撫でられたり具合を確かめられる私はまるで愛玩動物か何かのような扱いだ。チベタン・マスティフはどうしてしまったのだろう。狼狽えながらも絞り出すように返事をするのが精一杯の私に構わずやりたい放題の彼女らで。
「でもね、ほら、この辺。手の平とかは柔らかいんだ。ぷにぷにー」
「ふふ、ほんとだ。ぷにぷにー」
 いつまで経っても飽きが来ないのか、唯は私の手を取ると必ずこれをやるのだ。
 しかも今日に関しては憂ちゃんまで巻き込んでしまって、ぷにぷに。
 前からうしろから、ぷにぷに。
 ぷにぷに、ぷにぷに。
 何だろうか。恥ずかしさとかそういう感情を超越してしまっては私はどこか次のステージへと進行してしまいそうだ。もう好きにしてくれと、もはや自棄を振る舞う以外にないような態である。
 そうして小半時間程、私がテレビの中の彼らの代わりを務めている内にもやがてそちらではスタッフロールが流れ始め、次いで番組切り替えの間の長いCMへと移ろう。
 普段からよく見慣れた番組であるならば、やはりこれもよく見慣れたであろうCMがそのあとに続いては時間の経過を感じることもあるのだが、そろそろ二十一時になるというのに我が家とは環境が違い過ぎるためか、どうにも実感が湧かない。まるでずうっとここに座ってはテレビを眺めて、それがいつまでも続いていくかのような不思議な感覚がするようだ。
 週末独特の疲れも相まってのものなのか、ぼうっとしている私の横で不意に憂ちゃんが立ち上がり、
「お茶、淹れ直して来ますね」
 そう――だ。私たちは、ただこうしてくつろいでいるだけではいけない。
 何とはなしにその意図を察した私は、解れ切ってしまっていた気を繰るようにする。唯にしてもやはり分かるのだろう。口にこそ出さないが心持ち緊張した面にてテレビを見つめている。
 一夜を挟んではいけない。ある程度のことは今の内に結論を付けなくてはならないのだ。そのタイミングを計るとしたらば憂ちゃんはやはり的確だ。今この時以外に有り得はしない。
 ふとモニタを見遣るといつの間にか宣伝合戦が終了しては夜間帯の一時間番組がスタートしていたものだが、やがて憂ちゃんが人数分のカップに湯気を立てる紅茶を改め、それに併せて唯がそっと電源を落とす。
 役割を終えた憂ちゃんも着席しては私と唯に見合い、そうだろう。いわれなくても分かっている。
「さっきの話の続きを、しようか」
「はい」
 そうして私は、まずは注いでもらったばかりのカップに口付ける。


「まずはその、憂ちゃんに謝らないといけない」
「謝る?」
 不思議そうな顔をする彼女に、そう、と。何はともあれまずはここを弁解しておかなくてはいけない。
「さっきは、ごめん。いきなり訳の分からないことを口走ってしまって……あんなんじゃほら、何が何やら、訳が分からないと思うんだ」
「そんなことないですよ」
 そんなことない――そう、即答にて、口の中で転がすように反芻する憂ちゃんからは、先刻のような意外の念などは感じられず、纏う空気が一変したかのような印象を受ける。
「お姉ちゃんと澪さんのことは確かに私も驚きましたし、流石にさっきは突然のことだったので取り乱しもしたんですけど……」
 他所へと遊ばせていた視線を真っ直ぐにこちらへと寄越す彼女の、こういう間合いはどうにも苦手な私なのだけれども、そうもいっていられない。動じてしまわぬようにしっかりと正面から受け止める。
「澪さんがお姉ちゃんのことをしっかりと考えてくれていて、お姉ちゃんも、そう。お互いがお互いのことをきちんと想っているんですから、それはきっと悪いことじゃないんです。そうですよね?」
 言葉短にまとめられたその陳述には額面以上に許多の意味が込められていて、そうして彼女の目がそれら一つ一つの裏に乗せた意味合いを雄弁に物語り、また、補っているのだ。
 正直なところ、私は気圧されている。どこかうしろめたい、自分に自信を持てないようなところがあるからなのだろうか。
 投げられた問に対しそうだと答えるのは簡単だが、上っ面だけにそうしたのであっては意味がなく、それはまさしく真剣で当たる彼女に対する失礼に値するだろう。唯のことを大切に思っている憂ちゃんの意を汲み、そこから派生するであろうあらゆる分別に対して大いに頭を悩まし、飲み込み、そこまでしてようやっと私は答えを弁じる権利を得るのだと思う。半端など許されたものではない。
 今まで何度繰り返して来たことであろうか。自問を今一度走らせる。
 私は唯のことをどう思っているのか。
 これから先、唯とどうしていきたいのか。
 私たちの関係の変化が周りにどのような影響を与えるのか。
 また、自らにどのような影響が降り掛かるのか。
 これらに限ったことではない。とにかく考えられ得る全てから弾き出されるポジティブネス、ネガティブネス。その一つ一つに対して私は推断を下していく。
 それらは決していいことばかりではないが、しかし、悪いことばかりでもない。悪いだけならそもそも、私はそうしないのだ。私にとっての何かいいことというやつが先行したからこそ自らこの事情に身を浸し、その上で被るべき義務を負っているのである。
 そう、それら面倒をも認識した上で、やはり私は唯と共にありたい。
「うん、間違いない。私はこんなだけれども、それでも唯は特別で……大切だ。それだけは間違いのないことだ」
 私の断言へと寸時面を緩ませて頷く憂ちゃんは、次いで私のうしろへと問い掛ける。
「お姉ちゃんも?」
「うん。澪ちゃんと一緒だよ」
 私が悩んでいる内にも腹を決めていたのだろうか。即答する唯には余計な迷いなどは非ず、芯の通ったはきはきとした口調でして返す。その言に対し、私としても欣幸の念が浮かんでは来るものの、どうやら余裕というやつが足りないらしい。何かしらの反応を返そうとするも、それも敵わない。
 そうして場には小時の沈黙が落ちる。憂ちゃんは何事かを考えているのだろう。私と唯の様子を吟味しては顎に手を当て俯き、黙考し――しかしそれもあっという間のことだ。直ぐ様顔を上げては場の仕切りを改める。
「実際のところ、私も、個人的には女の子同士だとかそういうのって些細な問題だと思うんです」
 そうして切り出す憂ちゃんの目はいつになく鋭い。
「極端にいうと、私はお姉ちゃんが悪いことに巻き込まれなければ、不幸なことにならなければそれでいいんです。仮にお姉ちゃんが男の人を連れて来たとして、でもそれって至極普通のことですよね。一般的にはそうなんでしょうけれども、その相手の方が万が一お姉ちゃんにとってよくないのであれば、私はおそらく全力で反対すると思うんです」
 一つ息を吸っては、長弁となるのであろう。そして二の句を次ぐ。
「世間一般的でいうところの当たり前って、私はそこまで大切なことじゃないと思うんです。うちの両親を見ていてもそうだし、お姉ちゃんを見ていてもそう思うんです。ほら、普通にすると親御さんがこんなに頻繁におうちを空けて、憂ちゃんは大変じゃないかってよくご近所の人とかにはいわれたりするんですけれども、私は決してそんなことはなくて。お姉ちゃんのために家事とかそういうお仕事をしてあげて、お姉ちゃんが楽しそうに学校にいって、楽しそうに皆さんと部活をして帰って来て、やっぱり楽しかったよって私にそうやって一日の話をするんです。そうやって、幸せそうに私へお話をしてくれるお姉ちゃんさえいれば、私はそれだけで嬉しいんです」
 無意識なのだろうか、うしろで唯が私の裾を引っ張る感触が生地越しに伝わって来る。振り返られないものだから確かめようがないのだが、果たして今彼女はどのような面で、どのような想いで憂ちゃんの言葉を賜っているのだろうか。
「特に最近のお姉ちゃんのお話は澪さんのことで持ち切りでした。澪さんはすごい、頑張り屋で、軽音部のまとめ役で、細かいところまで気の配れる人だって。私も澪さんみたいになりたいなあって、お姉ちゃんはいつもそういうんです。作曲を通じてからは一層にそうでした。今日はどのくらい作業が進んで、どういう風に澪さんとお話して、楽しかったとか、いい勉強になったとか。そういうお話を聞いているとほら、澪さんが普段どれだけお姉ちゃんをよくしてくれているかなんて直ぐ分かっちゃうんです。少なくとも、そこら辺にいるような人たちには決して出来ないくらいに頑張っているんだなっていうのが伝わって来ます」
 憂ちゃんは、そこまでいっては足を組み直し、ソファーに手を突きこちらへと身を乗り出して来るようにする。対して私は、うしろから私を頼るような、そんな唯がいることもあってか腰を引くようなこともない。ここが正念場なのだと、精一杯の意気を発揮しては泰然自若として憂ちゃんの勢いを真正面から受け止める。
「だから私は、お姉ちゃんと澪さんのことを応援します。さっきは何か、意地悪くいっちゃいましたけど、本当に、友達だとかそうじゃないとか、そういうのって関係ないと思うんです。お姉ちゃんも澪さんも、お互いがお互いを想う気持ちって変に即物的なところじゃなくて、すごく綺麗なところから来る、とてもいい関係だと思うんです。ありきたりな言葉にはめちゃうことなんて、ないんですよね」
 そこまでいってはようやく落ち着いたのか、憂ちゃんは身を引き一つ深呼吸をする。
「難しいですから、簡単に割り切れないこともあると思いますけど、私は二人の味方です。お姉ちゃんには澪さんと仲良くしてほしいし、澪さんにしてもそうです。お姉ちゃんとずっと友達でいてほしい。お気付きじゃないかもしれないですけど、お二人ってほんとにお似合いなんですから」
 ここに至ってようやく悪戯っぽく笑う憂ちゃんに、ようやっと私は身に掛かった重しの、その内の幾つかが解けるような念を抱く。うだうだと悩んで保留ばかりだった私たちよりもよっぽど憂ちゃんの方が達観しており、まるで目が覚めていくようだ。私たちはもう少しだけでもいいから、思い切るべきだったのかもしれない。
「ありがとう憂ちゃん。その、何か今日は迷惑を掛けてばっかりで。変なところを見せちゃったし、誤解を解くどころか逆にフォローまでしてもらっちゃって」
 変なところなんて、と顔を赤くする憂ちゃんはここに至ってようやく年相応と相成る。その時を思い出してはやり辛くて仕方がない様子だ。
「憂ちゃんのいう通りに、私たちは何かこう、私たちの関係っていうのかな。そういうものを簡単な型にはめ込もうとしていたのかもしれない。それが当たり前だと疑いすらせず、おそらく考えなくてもいいからって楽だったのかな。今考えると逆にそっちの方が辛いっていうのにね、しょうもないところで二人でうだうだと悩んでた」
 私はうしろ手に唯の手を取る。
「でも、憂ちゃんのいう通りなのかもしれない。1か0かじゃなくて、世の中ってそんな単純に割り切れないところが沢山あって、私と唯みたいなのはまさしくそうなのかもしれない。変にその尺度に合わせようとしたんじゃ、それはやっぱり無理が来ても仕方がない……ようやくそれに気付けた気がするよ。ありがとう」
「私は別に、そんな」
 そうして謙遜する憂ちゃんを制しては続けさせてもらう。
「憂ちゃんにはまた迷惑を掛けるかもしれないし、私だって人間だからいいことばかりじゃないかもしれない。それでも、私はこれからも唯の友達をやらせてもらおうと思う。とても……そう、とても仲のいい友達を。唯のことは大切にする。勿論、憂ちゃんのこともだ。私なんかじゃ至らないところばかりかもしれないけど、どうか許しを頂きたいと思う」
「憂、私からもお願いするよ。憂のことも澪ちゃんのことも、私もっと頑張るから」
 私が発言を終えると同時にまるですがるかのように添える唯へと、「何か、自分の子供をねだられてる親御さんみたいな心地ですね」と、憂ちゃんは軽く冗談めかして前置きしてから、
「許しだなんてそんな、私にそんな権利なんてありませんし、仮にあったとしてもほら……こんなに仲のいい二人を裂いちゃったら、私ってまるっきり悪役ですよ。そんなこと、出来る訳じゃないないですか」
 今までで一番おかしそうな笑顔を見せては改めて憂ちゃんは口を開く。
「お姉ちゃん共々、改めてよろしくお願いしますね。澪さん」
 そうして両手でしっかりと握り込まれた手の温かさ、柔らかさへと、私は確かな安らぎと落ち着き、そして溢れんばかりの彼女の優しさを感じては、まるで歪な形をしていた私たちの型取りを憂ちゃんが仕上げてくれているかのような心象さえ浮かぶ。
 私は――私たちは、自分たちで完結することが出来ずにこんなにも周囲へと依存してしまっているが、それでも万事を上手く回していけているのは、まさしく私たちから寄り掛かられている彼女らの徳、そしてその器量によるものだと改めて実感する。
 憂ちゃんが唯の妹で、本当によかった。


「な、なあ唯、本当にやるのか?」
「当然だよ! いずれはって思ってたんだけど、このタイミングを逃しちゃったらほら、澪ちゃんってばあれこれ理由付けて逃げちゃうからね。今日は憂もいるし、そうもいかないでしょ」
 述べつつも一等はじめに毛布の中へと収まっては片手でそれを捲り上げ、残った方の手でしてマットをポンポンと叩いて私を煽る。そんな唯の面と来たら今や意地悪そうな笑みの色に染まっては、しかしそんなに嬉しがらなくてもいいじゃないか。どこに魅力を感じては彼女をここまでかき立てるのかが私にはいまいち理解が出来ない。
「う、憂ちゃん……」
 埒が明かないと、助け舟を出してもらおうと思っては私のうしろで枕を抱えて待機する彼女を見遣ってみるのだが、
「ごめんなさい澪さん。どっちかっていうと私も今回はお姉ちゃん側なんです」
 ごめんなさいとかいう割には悪気の欠片も感じられないようないい笑顔で即断されては、流石の私もこれを不可避な状況なのだと悟らざるを得ず、それでもどうにかならないものかとうだうだと悩んでいたらば憂ちゃんから背中を押されるような態である。全く以て姉妹揃ってどうしてこんなにも積極的なのだろうか。どこからそこまでの熱意が湧いて来るのか、私にはその動機というやつがさっぱりと分からないのだが、とにかく状況は逆側を決して許してはくれないらしい。
「ほらほら、澪ちゃん。諦めなさいな」
 トントンと、憂ちゃんに細かく押されている内にも気付いたら唯の直ぐ側まで来てしまっていたようだ。未だに踏ん切りのつかない様子の私の手を、唯は半ば強引に引っ張っては引きずり込むようにする。
「わ、わっ」
 二人分の重さを支えることとなったスプリングが瞬時悲鳴を上げるが、これは私が重いせいじゃないんだぞ、二人で乗ってしまえばこうなるのは当然で、と聞く人もいないところに胸中で弁明を打っていると、
「ほらほら、憂も。挟んじゃって、澪ちゃんが身動き出来ないようにしちゃえばいいんだよ」
「うん」
 「ごめんなさいね、澪さん」そう口添えて軽く腰掛け、それから足を持ち上げては憂ちゃんが完全にその身をマットの上に移すと、元々が一人用に作られているのだ。手狭で片付けられる域を軽々と超越してしまっては、ぎゅうぎゅう詰めとなってしまう。
「ほら、澪ちゃんもっとこっちこっち。そこじゃ寝てる間に憂が落ちちゃうよ」
 そういわれてしまっては何か悪いことをしているような気になってしまうのだから不思議なものだ。私は唯に促されるがままに彼女の方へと身体を引きずりながらスライドさせるのだが、図らずともそれは彼女とぴたりと密着してしまうような格好となる。
 思うのだが人体というものは決して平坦な形をしてはおらず、複雑な凹凸で構成されているものだ。スペースを効果的に活用するためにはすなわちその、今私が使った言葉でいうところの唯の凹部というやつに私の凸部を押しこんで、私の凸部に唯の凹部をそうして、それはまるでパズルのようなものだ。ピースがぴったりと組み合わされる具合のいい場所を探してはしっかりとはめ込んで、そうしてバラバラだったピースたちは一つの形をなすのであって。
 ――とか何とか、そういうところに発想を転換してはこの状況を何とか知的、冷静にやっつけようとする私なのだが、しかしとんでもない。そんなことが出来ようはずもない。だってほら、ついさっきお風呂を上がったばかりでどこか湿っぽい唯が横になって目の前で、私はそんな彼女ともはや抱き合うかのような態だ。寝間着から露出する彼女の肌と私の肌が触れ合うその場所からは、いつもとは違ったしとっとした感触が発生しては触覚神経を通じて私の脳みそを絶えず誑かす。何という甚大な情報量だろうか。それはもう必死に心頭滅却、色即是空を唱えなくてはあっという間に頭がダメになってしまいそうで。
「憂もほら、寝てる間に落ちちゃったら大変だから。もっと真ん中の方に来たらいいよ」
 これ以上どうするのかと思っていたら私なのだが、唯の提案に首肯を返した憂ちゃんは背中からまるで私にかぶり付くかのような格好で間を詰める。先生が曰く唯よりも豊かだとするその、何か柔らかなものが背中に押し当たるような形となってしまってもう、私は一体どうしたらいいのだろうか。
「で、澪ちゃんは、こっちだけ見てると憂が可哀相だから、仰向けになって真っ直ぐ寝てもらって……」
 振る舞い方が分からなくなってしまっている間にも私は続け様に唯の調整を受け、おそらくこれが彼女らにとってもっとも都合のよい体勢となるのであろう。仰向けに就いた私を唯と憂ちゃんがそれぞれサイドから挟むような形となって、いやもう、比喩でもなんでもなく本当に挟み込んでいるようなものだ。隙間なくぴったりと詰められた私はまるで彼女らに押し潰されんばかりの勢いである。
「憂はどう? 大丈夫?」
「うん、こっちは大丈夫だよ。お姉ちゃんは?」
「憂が大丈夫なら平気だよ。こっちは端っこだから落ちる心配もないしね。ここまで澪ちゃんにぴったりされたら流石に私も綺麗に眠れそうだよ」
 そうやってまるで私から張り付いているかのような物言いをする唯で、しかし待ってくれそれは逆だろうと。そうやって私が何か不平の一つでも零そうとしている内にも具合のいい体勢を探しているのだろう。右と左とで彼女らはゴソゴソと細かく身体を揺らすものだから、何かこう、自分が立てたものではない衣擦れの音がこうして眼下からするというのはどうにもこそばゆいというか、緊張をするものである。彼女らが私と同じ寝具の内に収まっているという事態を改めて認識してしまっては、やはり私は直ぐにそうなのだ。身体を石にして受け入れることしか出来ない。
「電気消すね」
 やがて憂ちゃんが落ち着き、自らも快眠に支障を来さないポジションを確保したのだろう。唯は発言もそこそこに壁際に添えられたスイッチを操作し、部屋の灯りを落とした。
 そうして視覚情報が遮断された室内は、私たち三人の呼気と微かな身動ぎの音だけによって支配されることとなる。
 それにしても私は相当に緊張しているらしく、どうしてか先程から動悸がうるさい程に胸部から響いて来るのだ。平時より明らかに活発なこいつをどうにか鎮めなくては、今夜を不眠で送ること請け合いであり、きっと明朝には疲れ切っているにも関わらず妙に充実した心地でお日様を迎える私がいるに違いない。
「なんか、」
 それもそれでまた満更でもない私なのだが、せっかくなのだ、彼女らに包まれる冥利を享受しながらもゆっくりと眠りに落ちたいものじゃないか。そんな私のささやかな願いもこのままでは通らぬであろうと判断するや否や、とにかくこの場を紛らわすためと思い口を開いていた。
「唯ってば、結構冷え性なんだな。手とか足とか、すごく冷たくなってる」
 そうやって呟く私に応じたのは当人では非ず、憂ちゃんの方で。
「そうなんですよ。お姉ちゃんってばエアコンの冷房も駄目ですし、大変なんですよね」
 そういっては何というシンクロニシティだろうか、左右から改めて私の手足に絡み直す彼女たちで、私がそれに戸惑っている内にも今度は唯が口を開く。
「だってえ、寒いの苦手なんだもん。いいよ、今晩は澪ちゃんにずっとこうやってギューってしてるから。へへー、冷たいでしょー」
 そうやって露出している肌に触れられた私は確かに冷たいものだが、しかし唯の冷気を私が、私の熱気を唯が、それぞれお互いに吸収してはそれらが段々と同じポイントに向かっていることが分かる。
 最初のひんやりとしている感覚も良かったものだが、彼女と直接に触れ合っているからこそこうなっているのかと思うとやはりこちらの方が心地いい。自由が利かないものだから私は頭を軽くそちらへと回して、コツンと小さく唯に悪戯してやると、
「えへへ、澪ちゃんあったかー」
 そういう間合いの何もかもを分かった上でこうなのだから。どうすれば私が一番恥ずかしがって、それでいて喜ぶのかというポイントを既に熟知されているらしい。もはや掌の上だ。
「お姉ちゃんと澪さんは本当に仲良しさんだねえ」
 そうやって軽く含みを持たせながらのジャブを入れて来る憂ちゃんと来たらこれもまた。おそらくこの先私はずっとこうやって、二人の尻に敷かれ続けていくことになるのだろうか。
「そういえば唯」
 それでもそうだ。こうやって私たちにとって都合のいいことばかりでもいいものだけれども、当座の問題として解決の出来ていない大きな課題があったじゃないか。さっきは憂ちゃんの方に取り掛かってはうやむやになってしまったのだが、このままではいけない。
「ムギのことはどうしようか」
「あ」
 今の今まで忘れていたのだろうか、存外にも程があるといったような面を作る彼女にしてはいやはや、だろうとも思った。
 同じくして、憂ちゃんについては事情すら分かったものではないだろう。状況を確認する意味も込めて簡単に説明をしてあげると、ああ、と何とも複雑そうな嘆息を吐いては横になったそのままの体勢で頭を傾げつつ、
「それは、ちょっと大変ですね」
 あまり深刻に取り上げたくないのであろう。場の空気を壊さぬようにしつつも、しかし座して放ったままにしておく訳にもいかぬ問題と取ってくれている様子の憂ちゃんにて、暫し、私たちの間には沈黙が落ちる。
「でも、」
 既に結論など出せないことなのだと結論付けている私に出来ることといったら彼女らの次善案を伺うこと以外にはないのだが、それでも何もせずぼうっとしているのもどこか違うと思っては苦慮を巡らしていると、流石に期待を裏切らない。まずは憂ちゃんが声を上げる。
「決定的な悪戯をされているという訳でないのであれば、看過する他にないんじゃないでしょうか。何かそういうのって、下手に突付いて逆におかしなことになっちゃうと大変だと思うんですよね」
 そう提案する憂ちゃんはすなわち現状維持を奨めるということなのだろう。確かに私もそれがいいとは思うのだが。
「お姉ちゃんと澪さん程に顔を合わせていない私がいうのも何か変な感じがするんですけれども、軽音部の方々は本当にいい人ばかりだと思うんです。だからといってそこに簡単に甘んじてしまうのも問題だとは思うんですけど、現状じゃ皆さんのそういう……良心みたいなものを当てにする他にないんじゃないでしょうか」
 当たり前のことで申し訳ありませんが、と謙遜を添える憂ちゃんにしては、しかしそんなことはない。実に的確であると感じる。
 現にムギをはじめとした軽音部の面々からは露骨な絡まれ方などしておらず、その点については一切の問題がない。私だけが先日ムギに掛けられた一言を引きずっているようにも取れるだろう。
「私も部室で変な感じがすることはなかったし、憂のいう通りにした方がいいのかな。ほら、ぶきっちょだから私。何かするにしても逆に失敗しちゃいそうだよ」
 便乗する唯の、斯様な光景が容易に想像出来てしまうものだからまた。
「やっぱりそれがいいんだろうなあ」
 呟きと共に肺の中の空気を押し出すと、各々も反芻、確認をしているのだろう。何かしらの代案はないものか、本当にこのままいってしまっていいものかと。
 私にしても詰まり気味の頭を無理矢理に巡らせるものだが、やはりそうだ、現状ではこれ以外にない気がする。いやもう、今日のところはそういうことでいいじゃないか。
「じゃあ、もうそうしちゃおう。決めた決めた!」
 そうして私は、いかんせん自由が利かないものだから、軽くブリッジのような体勢をしては軽く伸びをする。背筋がムズムズするようなだるさがいい具合に消えて来たところで再びマットに腰を預けては、今日はもうこれっきりとする。ともすれば回顧へと走りそうになる脳については、努めてその回路を遮断することに専念する。
 私は、肩口から下に伸びる彼女らの腕を手探りで辿ってはそれぞれの手を取り、控え目に握り込む。勢いのついでというやつだ。こんな機会なんて滅多にあるようなものではないだろうし、これくらいはやっていいものだろう。
「いい出しっぺで何だけど、そろそろこの辺にしておこう。幾ら明日が休みだからってあんまり遅くまで起きてちゃダメだし、そろそろ寝ないと。何か、今日は色々あってもう疲れちゃったよ」
 そうして首をすくませては布団の中に潜り込ませて就寝をアピールせんという私だったのだが、
「別に寝てもいいけど澪ちゃん、そのあとのことは知らないよ?」
「え?」
 右からぽつりと零す唯の意図するところが分からない。知らないって、何を知らないのだろうか。それこそ私こそが分からないのだが。
 何が何やらと私が戸惑っている内にも、左から憂ちゃんが身を詰めて来る。
「でもほんと、お姉ちゃんがいつもいってた通り。澪さんて、あったかくて柔らかくて、いい匂いがするんですね」
 唯が唯ならこちらもこちらだ。しかも何だ、いつも? いつもと仰ったか。このアザラシと来たら、もしかすると日常の至るところで憂ちゃんにそのような惚気を零しては、まるでそれが当たり前のことだと、大層当たり前のような顔をして毎日をやり続けていたのだろうか。何ともそれはとんでもない。即刻改めさせるべき習慣であるに違いはないのだがしかし、これはもはや手遅れというやつではなかろうか。
 左からは憂ちゃんが私の首筋に顔を埋めてクンクンと、右からは唯が私の胸元に顔を埋めてすりすりと。何だろうかこれは。一体どうしてこうなってしまったのか。
「ちょ、ちょっと、唯。憂ちゃんも」
 いい匂いを嗅ぐのは好きだけれども、自分の身体をそうされているのかと思うとこれはもう別のお話である。こうも寄って集ってやられては、風呂上りだとはいえ何かおかしなところがないかどうかと不安になるのも当たり前というやつで、憂ちゃんはいい匂いだといってくれているけれどもそれは果たして本当なのだろうか。刺激臭だとかで嗅ぐには辛いような臭いを、よくないものだと思いつつもついつい寄ってしまうようなあの感覚に近いものがあったりするのではないだろうか。いやそんな、刺激臭などは発していないとは自分でも思うのだが、得てして自身のものについてのことなどある程度は他人様に指摘されなくては分かりようもないというもので。
 ともあれ絶対に大丈夫だと断ずるための自信というやつが足りない私は、すなわちこの状況には大いに困り果ててしまう。
「ちょっと二人共、もう、そんないいもんでもないんだから、勘弁してくれよ」
 私がそういっても聞きやしない。私の耳元で先程から深呼吸のような大きな吐息を繰り返す憂ちゃんは、
「もうちょっと、もうちょっとだけ……」
 首元でそんなことをいわれるものだから、発言と共に吐き出される呼気がこそばゆくて仕方がない。加えて鼻息も荒く詰める憂ちゃんと来たら、普段の落ち着きはどこへいってしまったのだろうか。明らかに尋常ではない様子でその作業へと没頭しているものだから流石に不安になって来る。
「憂ったら甘えんぼさんなんだから」
 余裕綽々で言葉を投げる唯も、おそらく必死な妹に対して姉としての貫禄を見せたいのだろうが、がっぷりとかぶり付いてはどちらがどちらといったそんな様子では全く説得力など非ず、その無根拠に優位な心理はどこから来るものなのだろうか。
「はあ」
 思わず吐いて出た溜息はしかし、それも仕方がないというやつだろう。諦観八割の好感二割というやつだ。
 何だかんだで私はこうやって彼女らと引っ付くことが嫌ではなく、また、そうやって微妙な態度を取っている内にも都合のいい方に解釈をされては、彼女らのいいように扱われること間違いがないのだ。
 左からは髪を下ろして、まるで唯と瓜二つとなった憂ちゃんが。
 右からは妹に対する私の所有権を示さんと妙に必死な唯が。
 それもほら、こんなにも可愛らしい彼女たちからこうやって全身で以て好意を寄せられている私は、そこに悪いことなんてないだろう?
 きっと、この部屋、この家から外に出た途端にこれら様式は通用しなくなる。世間体だとか色々と面倒な問題がそれこそ山のように降り掛かって来ては私たちを激しく打ち付けるのだ。とても悲しいことだとは思うが、まあいいさ。
 私たちはこうやって、誰にも見られないようなところでして、普通の友達よりも少し仲良くやらせてもらおうじゃないか。
 私たちにはそれをするための権利があるし、行うために果たすべき義務というやつも、この部屋にいる限りほんの些細なもので済む。何も問題なんてない。
「もういいや、私は寝るよ」
 一人宣言しては勝手に眠りに就こうとする私へとやはり彼女たちは不満そうにアプローチを仕掛けて来ては、やはり眠らせるつもりなどさらさらないらしい。全く以て嵐のような姉妹である。私のどこがそんなにもいいのだろうか。
「全く」
 うるさくて仕方のない彼女らのそれぞれ近い方の腕を一本ずつ取り、私は両脇に抱え込むような形で固定する。とにかくかしましいその口を黙らせなくては私の安眠は一向に約束されないことであろう。
「せっかくなんだ、今日くらいは二人に囲まれて、いい夢を見させてくれよ」
 そうやって半ば投げやりにいい放つ私に対して、まさかこんなもので収まるとは思っていなかったのだが予想に反して静まる彼女ら二人は、さてどうしたのだろうか。私が些細な違和感を抱いている内にもぽつりと憂ちゃんが口を開く。
「お姉ちゃん、いいなあ」
 無音に近い室内の、加えて至近であるからこそ聞こえるような声の量でぽつりとそう呟く彼女に、私がその意図を探っている内にも唯が間髪入れずに応じる。
「へへ、でしょ」
 寒気が抜けるには、まだ遠い。外気の厳しさに反してこの私たちが乗るこのベッドの上だけはやたらと暖かで心地が良い。
 微睡み、時間の経過と共に、やがて溶けるように意識を散らしていく私たちは、果たしてどのような朝を迎えるのだろうか。ともあれ、明日になれば分かることだろう。
「おやすみ。唯。憂ちゃん」




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