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2010.01.02 (Sat)

【にあさんから頂きました】咲和SS

タイトル通りです、先日の内に早速にあさんから咲和SSが送られてきました。こちらでうpってもいいとのことでしたので、折角頂いた物ですから公開させて頂きます。ありがとうございます!

お話の内容的にはにあさん曰く『個人によって好き嫌いがあると思われる』とのことで、どういうことかなあと思っていたのですが程度の軽い暴力描写がありますので、ここで一応そういうものもありますよとアナウンスしておきます。

自分も読ませて頂きましたが、及ばないだなんてそんなことは非ず、とても素敵な咲和でした。雨降って地固まるといいますか何といいますか、あんまり書いてしまってはネタバレになってしまいそうなので詳しくは伏せますが(苦笑)
いい感じにラブラブでいらっしゃいます!

文字量的には1万字強というボリュームですので、読書時間の参考にどうぞ宜しくお願いします。尚、メールにて送られてきました原文ままで掲載しています。
最後ににあさんへ、この度は咲和SSをどうもありがとうございました。自分で書くことが出来ない手前こういう形でお話を提供して頂けて、書き手としてもいい刺激になります上に、読み手としてもとても有難く思います。もし機会がありましたら、とか言うと調子乗っちゃってる感じがしてあれですが、新しいお話など作って頂けましたら喜んで掲載させて頂きます。この度は本当にありがとうございました。

ではでは、本編は続きからです!

【More・・・】




高校生が受ける当たり前の授業。色んな数字が舞っている数学や、暗号文に等しい英語なんて眠気を誘うばかり。やっと放課後になり、今日一日で何度欠伸をしたことか、なんて思い返してる間にも自分の足は旧校舎へ向かっている。部活のためだったりみんなに会うためだったり、どんな目的で行こうとしているのかなんて上げ出したらきりが無い。
でも一番はあの桃色の髪の女の子、原村さんに会うためだったりする。案外現金なのかも、私。そんな自分の思考が可笑しくて何だか笑えた。麻雀が強い人だからっていうのもあるけど、原村さんの仕草ひとつで嬉しくなったり悲しくなったり。私っておかしいのかな…。とにかく、早く会いたい。原村さんに。そう思うと自然と足が早くなった。それから旧校舎に着き、上へ上へと階段を上がって部室のドアを開けた。
でも、いらっしゃいとか待ってましたよとか、いつもかけられる言葉が聞こえない。部屋の中を見渡してみても誰も居なかった。いつも誰かが必ず居たから、それに慣れてしまっていた所為か何となく落ち着かない。みんなどうしたんだろう。
「…ぁ」
心細くてキョロキョロしていたら、卓の上に紙が置いてあるのを見つけた。内容は
『抜けられない会議があるから今日は欠席』
『家の手伝い頼まれとるから今日は部活出れんわ』
と、部長と染谷先輩の欠席を示すものだった。少なくとも二人が居ない理由を知ってそうか、と納得。鞄を椅子の横に置いて、あと三人の入室を待つことにした。特にやる事も無いので、休憩中に読んでも良いと言われていた本棚から一冊本を取り出して読み始める。
黙々と本を読んで十五分くらい経った頃に、ドアの外からドタドタと元気に走る音が聞こえてきた。次にバンッと勢い良くドアが開き、やってきた人物が顔を覗かせる。
優希ちゃんだ。
「あれ?咲ちゃんだけか?」
人数の少なさに疑問を抱く第一声。私も同じこと思ったよ。
「部長と染谷先輩は今日来れないみたいだよ、ほら」
さっき見た紙を指差して言うと、優希ちゃんは少し困った顔をした。何か先輩に用事でもあったのかな、なんて思ってたら
「タコスの特売日だから今日は休むってこと言いに来たんだじぇ、もう京太郎も一足先に行かせたし…」
という欠席の知らせ第二弾。本当にタコスに目が無いんだね。というか京ちゃん、行かされたんだ…。京ちゃんも大変だね、と今此処に居たら言っていたかもしれない。
「というわけで咲ちゃん、悪いけど先に帰るじょ」
そう言って顔の前で手を合わせてゴメンのポーズをとる優希ちゃん。そんな優希ちゃんに嫌な思いはさせたくないから
「うん、気を付けてね」
って、気にしないでの意味も含めて私は手を振って見送った。
そして遠ざかっていく足音を聞きながら、本棚に今まで読んでいた本をしまって私も帰ろうかと思ったんだけど。まだ来ていない原村さんのことが気になったから、ひと目だけでも会いた…ううん。みんなが休みだって事を伝えておこうと思って鞄を置いたまま部屋から出た。だけど原村さんが何処に居るかなんて分かるはずも無く。普段居る校舎に向かって歩いていくことにした。
授業が終わってから三十分くらいしか経ってないのに学校に残っている人は少ないみたいで、途中で出会う人は数人しか居なかった。それになかなか原村さんに会えなくて、もう帰ったんじゃないかと心配になってきて、やっぱり携帯買ってもらおうかななんて考えてた。その時ふと
「は…むらってムカつ…よな」
と途切れ途切れに聞こえてきた声。今確か『原村』って聞こえた気がしたんだけど…。それにムカつくって言葉も…?その声がした方に行ってみると、校舎の陰に怖い雰囲気を纏った二人の女の人が居た。リボンは外してるから学年は分かんないけど、多分私より年上だろう。注意して話を聞いてみると、
「原村って、原村和のことでしょ?」
「そう。いつもすましてて人を見下してる感じでさ」
「あー、分かる分かる。私はあなた達とは違うのっていう態度とってんだよね」
「あれマジで腹立つんだって。絶対原村みたいな人間にはなりたくないね」
「だよねー」
なんて好き勝手なことばかり言って笑っていた。人の悪口言って笑うなんて…。これを聞いて私は凄く腹が立って、考えるより先に体が動いた。その二人の前まで歩いていき、
「勝手な事言わないでください」
と、自分より高い背の二人を見据えながら言う。すると
「何、あんた。関係無いじゃん」
なんて言って私に関わろうとしなかった。いつもだったら私は、知らない人の前だと緊張して怯んじゃう。けど今回は違った。
「関係無くありません。原村さんは私の友達なんです。友達でも、顔見知りでもないあなた達に原村さんの何が分かるって言うんですか?原村さんはすましてもいないし人を見下してもいない。見下しているのはむしろあなた達の方じゃないですか!自分達が原村さんに到底及ばないから、原村さんに勝てないから侮辱して満足してるんでしょう!?」
勢いにまかせて一気に怒鳴った後、肩で息をした。それくらい興奮していた。すると二人のうちの一人が手を振り上げたかと思えば、次の瞬間その手は私の左頬にぶつかってきた。『バシンッ』と鈍い音が頭に響き、私はその衝撃を受け流せず地面に倒れこんだ。一瞬だけ、目の前が揺れたみたいだった。それと共に口の中に鉄の味が広がる。今の衝撃で口の端の辺りが切れたらしい。
「なんなのコイツ、ウザイんですけど」
頬を叩いた人が手をプラプラさせておどけてみせる。その動作に笑いながら、もう一人の方が近づいてきた。叩かれた頬がジンジンしたけど、そのもう一人の方に向かって私は言っておきたい事を口に出した。叫んだって言ったほうが良いかもしれない。
「…あなたたちみたいな人間には絶対なりたくない!」
すると、近寄ってきたもう一人の笑っていた顔が怖いくらいに険しくなった。そして無言で私の鳩尾部分を蹴り上げた。『ドスッ』と鳴ったのではないかというくらいの強さで。
「あっ!?…ぐ……」
予想していなかった腹部への攻撃に、数秒間息が止まったように感じた。その後、
「ふざけんなよ、このクズ!」
という言葉を発し、脇腹に強くもう一蹴り入れられた。
「うあっ……」
痛みで身体が震える。何か言い返したいけど声が出ない。パクパクと金魚みたいに口が動くだけで。頑張って声を絞り出そうとしても出るのは『ごほっ』と咽る音だけ。それから
「気分悪い、帰ろうよ」
と低い声で一人が尋ね、もう一人は頷いた。そして二人は最後に私を一度睨み、鞄を持って帰って行った。
二人が立ち去った後、しばらく私はお腹を蹴られた痛みと、その影響による酸欠の所為で身動きが取れなかった。お腹蹴られたの初めてだよ、なんて思いながら酸欠状態から抜け出すべく息を吸い込む。途端に咽かえった。さっきの衝撃で委縮していた肺が受け付けなかったのか、吸い込んだ以上の量の空気を吐き出した。
「けほっ………、ごほっ…ごほっ……っ…」
咽かえるたびにお腹に痛みが伴った。苦しいから息を吸う、でも痛いから息を止める、ということを数回繰り返す。そしてこれ以上校舎の陰で寝ているわけにはいかないと片手を地面について無理に立ち上がろうとしたけど、痛みが襲ってきてまた倒れそうになる。何とか校舎の壁に寄り掛かりながら立ち上がった。でも、まだ息が苦しい。苦しいけど、それ以上に私は悔しくて。原村さんがあんな風に思われるのが悔しくて堪らなかった。歯を食いしばり、私は上にある空と、その中を流れる雲を見上げた。涙が流れないように。あんな人たちの所為で泣くなんて嫌だったから。
しばらくして左手で痛む腹部を押さえながら
「…帰らなきゃ……」
と言って鞄を取りに行くため、今来た道を戻り旧校舎に向かう。一歩一歩足を前に踏み出すと痛みがぶり返してくる。ズキズキと疼く様な痛みが煩わしかった。特に旧校舎を上がる階段は辛かった。足が思うように動いてくれない。右手で壁をつたいながらゆっくりと、何とか上がっていった。
やっと部室の前に着いて、私は誰も居なかった部室のドアを開けた。ギィィ…と古ぼけた音が響く。誰も居ない、そんなことに安心しようとしていた。でもそこには
「…宮永さん?」
会いたかった人が居た。卓のそばに立って振り向くように向けられた視線。
「原…村さん……?」
もう帰ったと思っていたから、もう今日は会えないと思っていたから驚いた。だけど今は…会いたくなかった。
口の端が赤く滲み、若干前のめりになりお腹を押さえ、制服は所々土で汚れていて、苦悶の表情を浮かべているだろう私。こんな私を見たら彼女はきっと心配してしまう。急いで普段通りを装うため姿勢を直そうとしたけど、それがいけなかった。さっきまでの疼く様な痛みが、蹴られた時の様な鋭い痛みに変わる。その痛みに耐えられず、両腕でお腹を守るように抱えて力を入れ、痛みを和らげようと身体が動く。それと同時に
「痛っ…!」
と声も出てしまう。原村さんに聞こえてませんように、なんて願ってもみたけど無駄だった。原村さんは驚いたような顔をした後すぐに駆け寄ってきて、
「どうしたんですか!?」
って顔を覗き込んで、一番聞かれたくない質問を投げかけてくれた。何とか誤魔化そうとしたけど
「な、何でもないよ…。ただ転んだだけ…だから……」
言葉が切れ切れにしか出て来なくて顔を逸らす。やっぱり原村さんは納得してくれなかった。私の両肩を掴んで自分の方に向かせ、一呼吸置いてから
「どうやって転んだらこんな酷い事になるんです?何があったんですか?」
と真剣に聞いてくる。どうすれば良いか分からず、私は俯いてしまった。答えが返ってこない事に原村さんも困っているみたいだった。
少しして原村さんの手が私の肩から離れた。諦めてくれたのかと思った。でも次に私は右手を握られ、ベッドの方へ連れて行かれた。そして原村さんがベッドに腰を下ろし、私の右手を引っ張った。座って、と訴えるように。そっと隣に座る。少しの間静かに座っていたけど、原村さんが私の方を向いて
「もう一度聞きます。何があったんですか?」
と、さっきと同じ質問をする。私は
「…だ、だから転んだだけだってば。別に大丈夫だよ…?」
って、今度は明るく言ってみる。でも原村さんの表情は不満そうで、
「…泣きそうな顔でそんな事言って、誤魔化せると思いますか?」
そう言われた。私、泣きそうな顔してたんだ。
「お願いです、宮永さん。何があったのか、話してもらえませんか?」
原村さんの声が悲しそうに聞こえた。こんなに一生懸命聞かれて、それでも誤魔化すなんてこと…私には出来ないよ…。
「…原村さんが嫌な気持ちになるかもしれないけど、それでも良いの…?」
そう聞くと、原村さんはコクリと頷いた。本当は言いたくないけど…私は少し前にあったことをゆっくりと話していった。悪口を言った二人の事から部室に帰ってくるまでの事を。
「そうだったんですか…」
一通り話が終わって、原村さんの声に元気が無くなった。自分の悪口を聞いたら誰だって嫌な気持ちになるもんね。その原因を作ってしまったのは…私。今日此処に私が居なきゃ、原村さんも嫌な思いせずに済んだのに…
「ゴメンね、こんな話…して…」
そう言うと目の辺りが熱くなって、ぼろぼろと涙が流れた。涙が流れた痕にも熱が伝わる。さっきは我慢出来たのに、今度は耐えられそうに無い。さっき一人だった時より、今我慢出来て欲しかった。
「宮永さんは悪くありません。だから、泣かないでください」
原村さんは私の涙を親指で拭って慰めてくれた。辛いのは原村さんの方なのに、何で私が泣いてるんだろう。そんな自分が情けなくて、ごめんなさい、と小さく謝ることしか出来なかった。それと、こんな状態の私に困っているんじゃないかと思って不安になった。いいかげんにしてと言われても不思議じゃない態度をとってるから。でも次に続いたのは、
「それに私、宮永さんが私のこと庇ってくれたのが嬉しいんです」
という明るい調子の言葉。呆気に取られて私は目を丸くして原村さんの顔を見た。原村さんは、笑ってた。そして私の切れた口元を指で触れ、
「こんな怪我までして私なんか庇う事無いのに。怖かったり、危なかったりしたら逃げて良いんですよ?」
って言ってくれた。でも言われた瞬間私の口からは言葉が出ていた。
「だけどっ、悔しかったんだもんっ…。何で原村さんがそんなこと言われなきゃいけないのって、思ったんだもんっ!」
私は言い終えた後に歯を食いしばった。子供のようにしゃくり上げて泣くのを止めたかったから。それでも涙だけは止まらない。止まれ、止まれ、と必死に願いながら制服の袖で乱暴に拭った。すると突然何かに包まれた。胸に柔らかいものが当たり、前から背中まで全部温かくなった。いきなりのことで理解するのに時間がかかったけど、私は、原村さんの腕に抱き締められていた。擦ってヒリヒリと痛む目が現実だということを教えてくれる。
そして
「ありがとうございます。すごく…嬉しいです…」
と耳元で聞こえてきたかと思えば、私を抱き締めてくれている腕に少し力が込められた。すぐ横にある原村さんの顔を横目で見ると、全体的に赤くなっているような気がする。それを見たら私もカァッと身体が熱くなった。多分顔も赤くなってるだろうな。その状態のまま原村さんを見てたら、心臓がドクンドクンと頭に響くような音を鳴らし始めた。原村さんに聞こえちゃうんじゃないかと思うくらいの大きい音。これって…一体何なの…?原村さんに抱き締められてると…すごく恥ずかしいような、嬉しいような変な気持ちになる。それに、安心する。
今まで泣いていた所為で強張っていた身体の力が抜けて、軽く原村さんに寄り掛かる体勢になった。…あったかい。小さい頃にお姉ちゃんも抱き締めてくれたりしたけど、それとはまた違う感じだな…。二人とも大好きなのに何で違うんだろう、なんて考えた。頭に引っ掛かったのは『大好き』という言葉。お姉ちゃんは大好きだよ?原村さんのことだって大好…き…。…?心の中で確認したら、心臓が今までにないほど大きな音を上げた気がした。待って、落ち着け私。もう一度考えてみる。優希ちゃんは好き、部長も、染谷先輩も、京ちゃんも好き。ここまでは普通に好きって言える。次に問題の原村さん。原村さんも好き、そう思った瞬間、さっきもなったみたいに心臓が大きな音を上げた。今度は確実に。
…そうだったんだ、お姉ちゃんへの『好き』と原村さんへの『好き』は、違う意味だったんだ…。はっきりと知ってしまった自分の気持ち。
その、私の気持ちを原村さんに言いたくなった。すごく唐突で、すごく困っちゃうと思うけど。でも、言わないと後悔する…だから。
「あのね、原村さん…」
そう言って私も原村さんの背中に手をまわす。ピクッと原村さんは反応したけど、嫌がったり離れたりはしなかった。
「私ね、すごく原村さんに感謝してる。原村さんのおかげで麻雀の楽しさを思い出すことが出来たし、私が困ってるといつも助けてくれるから。原村さんに出会えて、本当に良かったって思えるの。だから…ありがとう…」
ギュッと腕に力を込める。そして続けた。
「でも最近、他の事も考えちゃって。原村さんに会いたくなったり、話がしたくなったり…触れたくなったり……」
段々声が小さくなっていくのが自分でも分かった。原村さんは静かに聞いてくれてるけど、心の中ではどう思ってるんだろう。そう思いながらも私は、
「多分私、原村さんに恋してる…」
自分の素直な気持ちを打ち明けた。その後一瞬原村さんが身動ぎして離れかけた。けど、私は離れて欲しくなくて。それにしっかりと聞いていて欲しかったから腕に力を入れて抱き締めた。此処に居て、という意味を込めて。そして、一番伝えたいことを続けた。
「原村さんのことが…好きです」
…言っちゃった。原村さんを困らせたくは無いけど、抑えられなくて。でも、言えて何だかすっきりしたよ。
「ぁ、あはは。ごめんね、変なこと言って」
ちょっと気まずくなって誤魔化すように笑ってみた、だけど原村さんは黙ったまま。この沈黙が私には苦しかった。そうだよね、女の子が女の子を好きになるなんて、変だって思われても仕方ないよね。いっそのこと私なんか突き飛ばしてくれれば良いのに。拒んでくれた方が諦められる。そう思った。でも、いくら待っても拒絶の反応は返ってこない。
っていうか原村さん、震えてる…?
さすがに私も違和感を感じて、原村さんから離れ、顔を見る。すると目に入ったのは、真っ赤な顔をしてポロポロと涙を流す原村さんの姿だった。
「は、原村さん!?」
まさか泣くとは思わなかった。
「ゴメンなさい、そんなに嫌がるなんて思わなかったから…」
私はベッドから立ち上がって原村さんから離れようとした。心配させて、悲しくさせて、最後に泣かせちゃうなんて…最低……。もう友達にも戻れないだろうなって考えて二、三歩踏み出したその時、服の裾が不意に引っ張られた。驚いて反射的に後ろを振り向くと、原村さんの手が私の方に伸びて裾を掴んでいた。その後、
「…違います…」
と小さな声が聞こえてきた。まだ声は震えてるけど、ベッドに座ったままの原村さんはしっかりと私を見据えた。そして言った。
「嫌がってなんかいません。…むしろ、嬉しいです」
そう言われても、私は言葉の意味が理解できなかった。キョトンとしている私を見て、原村さんは深呼吸をしてから。
「私も…私も宮永さんのことが好きです」
そう言ってくれた。私を、受け入れてくれた。そう思った安心感からか、私の目からはまた涙が溢れ出した。嬉しい時にも、涙って出るんだね…。
「泣いてばかりですね、私たち」
そう言って原村さんは立ち上がって私に目を向け、困ったように笑った。私もつられて涙を拭いながら笑う。そして、自然に口が動いた。
「今だったら私、死んでも良いや」
そう思えるぐらい幸せだった。でも原村さんは目を見開いて
「そ、そんなこと言わないでください!」
って、泣きそうな顔になりながら叫んだ。まさか本気で死ぬと思ったのだろうか。そう思いつつ、私は原村さんの大声に吃驚して、少し後ろによろめいた。っとと、転んじゃう。
片足で踏ん張って立ちなおし、原村さんに
「死なないよ」
と言って笑って見せた。すると原村さんが何か気づいたように目を細め、近寄ってきた。どうかしたのだろうか、と疑問に思っていると
「そういえば、怪我してたんですよね…」
と言って私の前に立った。無意識に左手でお腹を押さえていたらしい。すぐに離して
「ぜ、全然痛くないから」
なんて言って手をひらひらさせる。でも原村さんの手がゆっくりと動き、人差し指で軽く私のお腹のところを弾いた。
「っ…!」
身体に響き渡るような激痛が走る。予想外の痛みに声が出なかった。
「全然痛そうですけど」
ぅぅ…全くもってその通りです…。何で私って嘘つけないんだろう…。なんて思ってたら、
「少し、休んで下さい」
と言われ、またベッドに連れて行かれた。原村さんが布団を捲ったから…多分横になりなさいってことなんだろうな。今は何を言っても聞いてくれないだろうからと、素直に言うことを聞いて横になると布団をかけてくれた。それから原村さんは、パソコンの前にある椅子を持ってきてベッドの横に座った。顔を原村さんの方に向けると、心配そうな表情で私を見ている。
「心配しないで、大丈夫だから」
安心させようとして言ったけど
「…さっきもそう言ってました」
って返された。さすが原村さん、記憶力抜群だね。返事に困って黙っていると、おもむろに原村さんが立ち上がって近付いてきた。そして
「口の端が切れてますから、消毒しないといけませんね」
と言って私の口の端を指でなぞる。消毒と聞くと、擦り傷などに塗るあの染みる液体を思い出すけど…。今、原村さんは手に何も持っていない。一体どうやって消毒するんだろう、なんて考えてみる。小さい頃、指を切っちゃった時にお姉ちゃんがやってくれたことが頭に浮かんできた。確かあの時は「舐めておけば大丈夫」って言ってたよね。……舐める…?
「ぇ、ええっ!?」
顔が一気に熱くなった気がした。多分赤くもなってるはず。私のその様子を見た原村さんは微笑んだように見えた。分かりましたか、とでも言うかのように。枕の横に手が置かれ、原村さんが覆い被さるような体勢になって顔が近づいて来る。あわあわしながら私は布団の端をぎゅっと掴んで、消毒しなくても大丈夫って言おうとした。
でも言えなかった。柔らかい感触が唇に触れていたから。私の目の前は原村さんでいっぱいで、自分より白い肌が何だか眩しかった。私が想像した通りのその行為は、最初は触れていただけだった。でも次第に原村さんの舌が、私の唇をそっと、だけど抉じ開けるように私の中に入ってきた。自分のものじゃない温かいその異物は、味わうかのようにゆっくりと中を移動する。ピチャ…ピチャ…と隙間から漏れる音が恥ずかしく感じた。そして傷のところをそっとなぞられ、小さな痛みに身体が震えた。消毒だって言ってたからもう終わるだろうと思っていたら、今度は奥まで入れられ、私の舌に原村さんのが絡められる。
「ふっ…ぁ、ん……むぅ…っ……」
酸素が足りなくて苦しい。原村さんの舌の動きがさっきより早くなってる気がして、身体も熱くなってきた。どうにか離してもらおうと、手で原村さんの胸を押してみたけど全然動かない。柔らかなマシュマロのような感触が手のひらに伝わってくるだけだった。それに反応してだと思うけど、
「ふぅ…んんっ……」
原村さんのすごく色っぽい声が聞こえた。…すっごく可愛いけど、全然離れてくれない。こんなに力あるんだなって意外に思っていた時、私はその意外な力で頭の後ろに手を回されて上半身を少し持ち上げられた。その分密着し、濃厚になったキスが私の口内を犯していく。圧倒されて身動ぎするのも儘ならない。時間がすごく長く感じる。息をする暇もなく求められ、段々頭がぼぅっとしてきた。しばらくして原村さんも苦しくなったんだと思うけど、ゆっくりとした動作で離れていく。
そして私たちの間に残ったのは、一本のピアノ線みたいに細く伸びる橋だった。下に居る私に音もなく流れてくる原村さんの一部を、私は飲み込んだ。その橋が途切れるまで。
それは何となく甘かった。砂糖みたいな甘さじゃなくて…なんて言うのかな。胸から指の先まで全部に染み渡っていくような、そんな感覚が駆け巡った。息をする度に甘さが戻ってきて、原村さんに触れていないのに身体のあちこちがくすぐったい。先程まであった痛みも何処かへ行ってしまったみたいだった。でも身体の自由は利かなくて、ベッドに沈み込む形で力が抜ける。瞼を上げていることすら億劫になって、私は静かに目を閉じた。
「疲れてしまいましたか?」
原村さんは優しく、何だか楽しそうに聞いてきた。…分かってるくせに。悔しいからもう少し目を瞑っていようかな。そう思っていたら
「…宮永さん?」
今度は心配そうに聞いてくる。そして耳元でギシッと軋む音が鳴った。多分顔を覗き込んでるんだと思うけど、私はこの状況の中でちょっと思い付いた。だからわざと反応しない。
「宮永さん、大丈夫ですか?」
さっきより声が近くなった。今だ。
「キャッ!?」
ほとんど真上に居た原村さんの首に腕を回して下から抱きすくめる。結構勢いよく倒れ込んできたけど気にしないで、そのままギュッと力を入れた。
「あ、ああああの、宮永さん!?」
驚いてる驚いてる。困ったように声を荒げる原村さんが可愛くて、もっといじわるしたくなった。腕の力を少しだけ、ほんの少しだけ緩めて原村さんが私を見てくれるのを待つ。大して時間もかからないうちに原村さんはこっちを向いてくれた。その瞬間私はもう一度原村さんの唇に触れた。今度は私からの、自分の意志でのキス。さっきみたいに長くはないけど、それでも効果は抜群だった。真っ赤になった原村さんがこっちを向いたまま固まっている。私は悪戯が成功した子供のような気分で
「お返し」
そう言って笑った。
「っ…もう!」
拗ねたように顔を隠す原村さん。私は彼女を抱き締め直して、ついさっき言ったことをもう一度言った。
「好きだよ、原村さん…」
夢で無いことを確認するように、繰り返す。原村さんは私の服を掴んで、顔は隠しながらも
「…私も好きですよ、宮永さん」
そう返してくれた。この時、私は初めて神様にありがとうって言いたくなった。それと、ずっと原村さんと一緒に居られるようにお願いしたくなった。図々しいだろうけど、たまには我が儘言っても良いよね…。
「ねっ、原村さん」
「えっ?何のことですか…?」
いきなり聞いて、何のことか分からず原村さんが首を傾げてる。それが可笑しくて、幸せで笑えてきちゃった。
「教えてください、何のことなんですか?」
気になるらしい。私は原村さんの耳元で
「ずっと一緒に居たいなって」
考えていたことをそのまま口にした。すると、原村さんの顔がまた赤くなった。でも顔は隠さないで
「…そうですね」
って言って笑ってくれた。

どうか彼女との別れが訪れませんように。私は今、それだけを願います。


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テーマ : 二次創作:小説 ジャンル : 小説・文学

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